平成29年(2017年)10月、神奈川県座間市のアパートの一室で、若い男女9人の遺体が見つかった。逮捕された男は白石隆浩、逮捕当時27歳。ツイッターで自殺願望者に言葉巧みに近づき、自室に連れ込む手口だった。レイプと所持金を奪う狙いがあったと、のちに供述している。世間を恐怖に陥れたこの事件は、猟奇的殺人として海外メディアも報じた。そんな事件から、まもなく丸2年を迎える。本稿は、容疑者・白石隆浩と面会をした、ジャーナリスト・渋井哲也によるものだ。

白石隆浩容疑者

 電車とバスを乗り継いで、東京・立川拘置所に行くと待合室でずいぶんと待たされた。面会室に行く前に、ペンとノート以外の荷物をロッカーにしまう。20分ほど待っただろうか、私の順番がきた。金属探知機を通り、「9番」の面会室のドアを開ける。数分ほどすると、白石隆浩被告が目の前に現れた。

「こんにちはーぁ」

 白石被告は黒のジャージを着て、無精髭(ひげ)をはやしていた。神奈川県座間市のアパートの一室で、ツイッターで知り合った男女9人(うち7人は自殺願望があった)を殺害し、その遺体を遺棄した事件の被告人だ。逮捕時、報道で流された顔写真よりもややふっくらしている。その挨拶の仕方から、おどけたような振る舞いに見えた。

「ナンパ」という言葉に笑顔

 私は自己紹介をし、持参した大学ノートに名前を書き、透明のアクリル板に押しつけた。面会希望のとき、名前を書いているので、初めて見る名前ではないはずだが、一度、手紙を出していることを伝えると、男は考え込んだ。

「うーん、手紙が多すぎてあまり覚えていない。あの、ネットナンパについて書いていた? あ、思い出しました」

 私は当初、白石は“ネットナンパ師”ではないかと思っていた。ネット・コミュニケーションの経験と、事件取材などを経て、死にたい感情を持っている女性をナンパするのは比較的、たやすいのではないかと感じていた。自殺やメンタルヘルスをテーマにしたコミュニティーでは、ユーザー同士は心理的距離が近くなる。こうした特性を利用するナンパ師もいると聞く。

 白石は、ナンパというワードが出たせいか笑顔になった。その表情は、9人を殺害し、死体を損壊した犯人と、同一人物であるとは思えない。それだけに、ただただ、事件のことを聞きたいという衝動に駆られる。

 しかし事件のことを聞きたければ、お金を要求してくる、という報道がされている。そんな人間が、ストレートに話を聞いても答えるはずもない。私は、事件そのものを聞けない制約を持ちながら、いかに事件の周辺部を聞き出すかを考えていた。

 男がどのようにインターネットを使ってきたのかを聞き、事件について考えようと思った。拙著『ルポ 平成ネット事件』(ちくま新書)を書くことを前提とした取材のためだ。