日常生活も普段どおりだ。

「お友達に会いに出かけたり、銀座のかかりつけの歯医者さんへも行きますしね。そうそう、本屋さんへも行きますね。子どものころは“活字中毒”みたいなところがあったんですけれど、今も雑誌を定期購読しています。ええと……『文藝春秋』に『ニューズウィーク』『サイエンス』……。“ずいぶん男性っぽいものを読んでいるんですね”って驚かれるのだけれど」

 本では最近、こんな失敗も。

「この間ね、久しぶりに5冊くらいいろいろな本を買ったんです。さぁ読むぞ! と思って。そうしたら、その本が入った袋をタクシーに忘れてきちゃって。結局、出てこなかったんです。せっかく重い思いをして持って帰ってきたのに、悔しくて(苦笑)」

 そんな本好きな八千草が、6月末に、自身初めてとなるフォトエッセイ『まあまあふうふう。』を上梓した。

「しかたないこと」はくよくよ悩まない

「お話をいただいたときは、“本と言っても何を書いたらみなさんが興味を持ってくださるのかな”と思ったのですけれどね。でも、自分の考えだったり、心の内を正直に見つめ直すチャンスだと思ってお引き受けしたんです」

 タイトルの“まあまあふうふう”は、八千草の好きな中国の故事成語“馬馬虎虎”から。もともとは「いい加減な」という意味の言葉だが、八千草は“(ちょうど)よい加減な”と解釈して、日々の生活で心がけているのだという。

 本書では、自宅や長野県・八ヶ岳高原の山荘でのひととき、大切にしている愛用品など、飾らない日常の写真を多数収録。日々の暮らし方や女優という仕事について、そして自身の病気との向き合い方、生き方についても初めて綴っている。

「年をとっていくと、それまで普通にできたことができなくなったり、少し怠けただけで体力や筋力が落ちたり。私もそういう自分が“悔しいなぁ”と思ったり、夜ベッドに入っていると何だか急に心細くなったりすることも、もちろんあります。でもそれは、自分ではどうにもならないことですから。それをくよくよ悩んだってしょうがない、と思うんですね。“ま、いいか”“ま、しょうがないな”と受け入れてやっていくよりほかないですからね」

 医師から、がんだと告げられたときも、自分の状況を穏やかに受け入れられたという。

「“おぉ……来たか”という感じでね(笑)。もっと若かったら、ショックも大きかったと思うんですけれど、“病気は病気で、まぁしょうがないな”“精いっぱい、生きるしかないな”って。病気だけではなくて、起きてもいない先のことや、もう取り返しのつかない昔のことも、どうしようもないことでしょう?」

 だからこそ、いちばん大切にしているのは、“いま”。

まずは目の前のこと、その日、一日一日を大事にして、自分にできることを一生懸命にやって生きることだと思うんですね。ごまかしてそのまま先に進んでも、何か居心地が悪いでしょう? それに、やっぱりどこかでうまくいかなくなるし……。でもね、そうやって頑張って一生懸命、進んだとしても、たいていのことは“あぁ、失敗したな”と思うようにできているのよね、悔しいけれど(笑)」

 そのやわらかな微笑みは、いまも変わらず輝いていた。

初フォトエッセイ『まあまあふうふう。』◎どんなときも、一生懸命に楽しく、〝いい加減〟に人生をまっとうしたい――新たな時代を迎えてなお、輝き続ける八千草さんの日々の暮らしと生きるヒントを綴った一冊。主婦と生活社刊 1400円+税
『まあまあふうふう。』※週刊女性PRIME記事内の画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします