相手は敵だけど、尊敬できる

 そして、今さんは就活の努力を重ね、念願かなって実業団で相撲を続けることが決まったそうだ。これは朗報! 世界が注目する魅力的な女子相撲選手が土俵で戦い続けてくれることは、これからの女子相撲の発展に大きな意味がある。

「去年、今年と、世界選手権(無差別級)では2位でした。来年、社会人としてもっと頑張って1位を目指します。それと同時に、相撲の普及活動をしていきたい。仕事もありますからどこまでできるかわかりませんが、世界に相撲を広げたい、と思います」

 大学では国際関係学を学び、英語も堪能な今さん。すでにその活動は始まっていて、今年はラオスを訪問した。

「去年の8月に大学のゼミの合宿でラオスに行って『ここで相撲を教えたい』と思いました。さまざまなサポートをいただいて再訪し、現地の子どもたちと相撲をやることができました。地元で活動されてるJICA(国際協力機構)の方々にも協力してもらい、最初は『中学生の女の子たちはやらないんじゃないかな?』と言われていたんですが、ひとり、ふたりと恐る恐る出てきて相撲を始めたら、あとはもう300人がワッと来ました」

 女の子も男の子も、小さい子も、けっこう大きい子も、相撲を始めると、どの子たちも目を輝かせて飛びついてきたそうだ。相撲は誰でも、どこでも、身体ひとつでできる。シンプルに勝敗がついて、楽しい。世界をつなぐ、本当に素晴らしいスポーツだ。

 そして、力強く相撲道を進む今さん。世界を見つめる視点は、女子の相撲が置かれた厳しい環境が逆に育んでくれたものだとか。

「男子は国内の大会がたくさんあって、そちらに比重を置いてますが、女子では世界選手権がいちばん大きい大会で、そこを目指します。それで自然と世界を見るようになりました。世界の選手はすごいです。私が昨年決勝で戦ったロシアの選手も、今年、同じく決勝で戦ったウクライナの選手も、それぞれ国を代表して来ている長い経験がある人たちで、芯の部分で言ったら日本の若手ではかなわない部分があります。相撲の技術云々ではなくて、それを司(つかさど)る心、がとても強いです」

 今さんは相撲の面白さに男女の差はないと言い、心技体のぶつかり合いに価値を見いだしている。

相撲は心技体を一瞬に出して戦います。人間対人間が本気で向き合い、ぶつかり合います。相手は敵だけど、尊敬できる。相手を尊敬できないと、相撲はできません」

 短編映画『Little Miss Sumo』では今さんが世界選手権で戦う場面が出てくる。少なく見積もっても1.5倍はあるだろう大きなロシアの選手にくらいついていく今さん。うまく相手の胸に潜り、押し、素早く動く動く。

 大きなロシア選手の動きも速く、土俵を右に左に移り、2人の体勢も変化し、今さんがうまく相手の横についた瞬間は、勝つ! と思った。しかしスピーディーな投げの打ち合いを重ねる一瞬のスキに突き落としで敗れた。画面で見るだけでもドキドキし、そこには確かに男女の違いや、国の違いなどが入り込むスキはなく、ひたすら人間と人間のぶつかりあいだけがあった。

 欧米で女子相撲が注目される理由に、ジェンダーの壁に立ち向かう女子相撲選手の姿への共感が大きい。しかし何よりも、女子の相撲は面白い。男子のそれと同じように。YouTubeなどにも女子相撲の動画は数多くある。ぜひ、一度見て、感じてほしい、その面白さを!


和田靜香(わだ・しずか)◎音楽/スー女コラムニスト。作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦やアルバイト迷走人生などに関するエッセイも多い。主な著書に『ワガママな病人vsつかえない医者』(文春文庫)、『おでんの汁にウツを沈めて〜44歳恐る恐るコンビニ店員デビュー』(幻冬舎文庫)、『東京ロック・バー物語』『スー女のみかた』(シンコーミュージック・エンタテインメント)がある。ちなみに四股名は「和田翔龍(わだしょうりゅう)」。尊敬する“相撲の親方”である、元関脇・若翔洋さんから一文字もらった。