あだ名がつけられてから2か月、初めて担任に相談してから1か月ほどで孝之さんは亡くなったことになる。遺書を読んだ両親は警察署に向かった。

「遺書は当日の朝に書いたのでしょう。携帯端末のアラームが午前3時30分にセットされていました。自殺の2時間前です。遺書を書き、親友へのLINEを打っていました。靴を履かないで外に出たのは、音が出て、私たち夫婦に知られないためでしょう」(正さん)

 自殺の前夜、孝之さんは特に変わった様子はなく、父親とカードゲームで遊んでいた。そして、録画したアニメ『ドラゴンボール』を見ていた。SOSのサインは特になかったという。

「思春期ですので、いろいろあるとは思いますが、学校側から、息子がいじめの件で相談していることの情報があれば、細かいことに気にして、止められたとは思います。学校に行かなくてもいいし、他の道もあったはずです」(正さん)

 加害生徒とその保護者は'17年1月15日、高校で遺族と個別に面会した。中傷する画像をLINEグループに流して、拡散に加担をしたことを認め「気持ちが想像できませんでした」などと言い、謝罪した。

 その後、「いじめ防止対策推進法」に基づく調査委員会「新潟県いじめ防止等に関する委員会」を県教委が設置。調査報告書の中で、「SNSの適性利用の取り組みの強化」があり、「SNSでの誹謗中傷など生徒が教職員に訴えてきた場合の対処マニュアルを、早急に策定すること」や、「『ソーシャルメディア・ガイドライン』を、生徒と話し合いながら決めること」などが提言されている。

 報告書でも「不特定多数に不本意な“あだ名”を広められているという事実を目の当たりにし、自身の孤立感を強めていった」と指摘する。

「(クラスなどの)人間関係が反映したLINEグループです。噂が広がったのがLINEでなければ、急速に広がることはなかったと思います。期間は短かったですが、長くなれば、別のSNSにも広がったかもしれません」(正さん)

 SNSで流された中傷は、期間の長さに関係なく、対象になった子どもへの心理的影響が大きい。直接はLINEグループでのいじめの内容を知らなくても、実際の言動に結びつけばダメージは計り知れない。それは、孝之さんの自殺でも明らかだ。

取材・文/渋井哲也

〈筆者プロフィール〉
ジャーナリスト。自殺、自傷、いじめなど、若者の生きづらさに関するテーマを中心に取材を重ねている。近著に『ルポ 平成ネット犯罪』(ちくま新書)があるほか、現在、2020年に刊行予定のいじめ問題に関する著書を執筆中