漫画家も、今の時代であればステルスマーケティングという言葉は知っているだろうが、口コミマーケティングや広告業界を知らないアーティストもいるだろう。クライアントが問題ないと説明すれば、鵜呑みにしてもおかしくはない。

 今回の場合「7人が同じ時間に同じハッシュタグ2種類を付けて発信し、広告であることは明らかであるため、PRタグは不要だ」と説明されていたという。これは、そのまま京都府の観光PRツイートを行った吉本興業のお笑いコンビ「ミキ」の例と同じだ。

映画『アナと雪の女王2』のステマ騒動について、12月5日と11日にウォルト・ディズニー・ジャパンが同社サイトで謝罪文を発表した(写真:ウォルト・ディズニー・ジャパン公式サイトより)
映画『アナと雪の女王2』のステマ騒動について、12月5日と11日にウォルト・ディズニー・ジャパンが同社サイトで謝罪文を発表した(写真:ウォルト・ディズニー・ジャパン公式サイトより)
【写真】ウォルト・ディズニー・ジャパン公式サイトで掲出された謝罪文

 本来ならばキャスティング業者はステルスマーケティングを疑われないよう寄り添うべきだろう。しかしワープが仲介するほかの事例紹介でも、PRと思われる投稿がPRタグなしに行われており、彼らが仲介している漫画家にコンプライアンスに関する指導を行っていたとは考えにくい。

 一方でクライアント側は、仲介業者を通すことで発信者のモラルに関して中間業者に一任しているという意識が強かったのではないか。キャスティング業者が間に入ることで、PR業務を発注する側、情報を発信する側の双方においてコンプライアンス意識が薄くなっていたとしても不思議ではない。

キャスティング業者にこそステマ教育の義務がある

 しかしキャスティングする側にも当然ながら道義的責任はある。いや、むしろ個人であるインフルエンサーやアーティストの紹介で成り立っているキャスティング業者には、発信者を守る義務があると言えるだろう。

 一方、前記のLIDDELL・福田社長は「たとえ仲介であっても、自社のサービスを通じてエンゲージメントしているのであれば、クライアントと発信者の双方を守るため、登録するインフルエンサー(この場合は漫画家)にどのような発信がステルスマーケティングになるのか、十分な教育やアドバイスを行う義務がある」と憤慨する。

 LIDDELLはインフルエンサーと企業をマッチングさせるSPIRITを運営しているが、仲介したインフルエンサーと企業のマッチング案件では、インフルエンサーの全発信をモニターし、ステルスマーケティングを疑われる発言に対して指導をしているという。

 また、同社ではインフルエンサー向けの教育プログラムを提供し、自分自身を守るためにステルスマーケティングに加担しないよう呼びかけているという。

『アナと雪の女王2』に関するステルスマーケティング問題で、もっとも大きな責任があったのはワープだろう。キャスティングを事業とするからには、業界慣習を含めてコンプライアンスに関しても監視し発信内容を精査して、キャスティングしたアーティストを守る責任があった。

 ところが『アナと雪の女王2』以前の事例も含め、同社にその意識は感じられない。無論、ワープに発注した代理店、またマーケティングプラン全体にゴーサインを出したウォルト・ディズニー・ジャパンに責任がないとは言わないが、ステマに関する知識を発信者に教育する責任と義務はキャスティング業者にあると思うからだ。

 もちろん、キャスティング業者に法的な義務があるわけではない。しかし、今回のことをきっかけに、より多くの人にインフルエンサーのキャスティングという事業、事業者自身が負うべき責任に関して認知が広がることを願いたい。

 今後、働き方改革で一般の会社員がダブルワークでインフルエンス業務を担うことも増えるだろう。小さな一個人を守ることこそ、キャスティング業者の本来のあり方のはずだ。

 


本田 雅一(ほんだ まさかず)◎ITジャーナリスト IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。