小説を書くか、旅をするか

 東山さんは長年続けてきた作家と大学講師の二足のわらじをやめて、今年春から専業作家になった。創作と向き合う時間が増えたことで、これまでとはまた違う新たな東山ワールドを読者に届けてくれそうだ。

「専業作家になったのは、50歳の節目を迎えたことと、2人の子どもが大学に入学したことがきっかけです。僕は人生で子育てが何より大事だと考えていて、子どもたちをひとり立ちさせることがいちばんの目的でしたから、そのために必要な金銭の目処が立った今、これから先の時間は自分のやりたいことに使いたいなと。

 大学を辞めて時間ができたので、もっと旅をしたいですね。世界中どこでも行ってみたいし、見識を広めたい。今後は小説を書くか、旅をするかのシンプルな人生になっていくと思います」

ライターは見た!著者の素顔

 ミステリーから近未来SF、歴史小説まで、幅広い作風で知られる東山さん。今作には主人公が書いたという設定の童話が出てくるが、実はそれも過去の作品なのだとか。

これは30年ほど前、東京でサラリーマンをしていたころに書いた童話です。結局、誰に見せることもなくお蔵入りしたのですが、この物語を書いている途中でふと『あの童話はこの小説で言いたいことに重なるな』と思い出して。30年の時を超えて、ようやく日の目を見てよかったです(笑)」

(取材・文/塚田有香)


『小さな場所』(文藝春秋)東山彰良=著 1500円(税抜)※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします
【写真】故郷・台湾に思いを馳せながらインタビューに答える東山さん
●PROFILE●
ひがしやま・あきら 1968年、台湾生まれ。5歳まで台北市で過ごし、9歳のときに日本へ。2002年、「タード・オン・ザ・ラン」で第1回「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞を受賞。'03年、同作を改題した『逃亡作法 TURD ON THE RUN』で作家デビュー。'09年、『路傍』で第11回大藪春彦賞受賞。'15年、『流』で第153回直木賞受賞。