通常、メンタルクリニックなどで行われているカウンセリングは60分1万円程度なので、カウンセリング料金としては、このカウンセリングが特別高いわけではない。(笠原さんが受けたカウンセリングが、きちんとした資格や知識を持った人がカウンセラーだったのかは定かではないが)しかし、その後に彼は追い詰められることになる。

「まず、脱出プログラムの10回コースの教材が25万円もしたんです。しかし、すでに洗脳されていた僕は、あの家を出られるならと思い支払いました。トレーニングの内容は、今まで親から受けたひどい仕打ちを書き出し、フィードバックをもらうというものでした」

 実際に彼が提出した資料を見せてもらうと、「お前は人と話す権利などない」「人のミスを自分のせいにされる」「月に1日しか休みをもらえない」など、人格否定やブラック企業の理不尽な規則のようなひどい環境にいた。

 そのせいか彼は、自分で思考すること、この選択が正しいのか、この行為を行って大丈夫なのか?という判断ができなくなってしまっていることが感じ取れた。また、彼とやり取りをしていると、自分の気持ちを言語化できていない部分が多く、時折言葉に詰まることもあった。

毒親脱出プログラムを放棄し、成功した意外な方法

 その後のプログラムも厳しかった。親に自分の気持ちを手紙に書いて、即脱出する、という内容だった。親に隠れてプログラムの課題をやっていたので、提出が遅れることが多々あった。そうすると延滞料金が発生し、最終的に総額40万円も支払わなければならなくなった。

 ここで、なぜ憎い親に手紙を書いて自分の気持ちを伝えないとならないのか、逃げたとしてもその先どうすればいいのか疑問がわいてきた笠原さん。そして、このプログラムをやめることにした。

「でもどうしてもこの異常な家を抜け出したかったんです。そこで、もう一度脱出のための方法を考えました」

 最終的に彼が使った手は夜逃げ屋だった。前日までは通常営業していた企業が翌朝、すっからかんになって倒産しているのを手伝う、あの夜逃げ屋だ。

「これもネットで検索して見つけました。費用は5万円しかかかりませんでした。決行は父が外出の日を狙いました。そして、ちょうどその日は給料日でもあったので、父の部下から手渡しで給料をもらいました。そして、家の裏にレンタカーを用意して必要最低限の荷物を持って逃げました。また、この日のために前々からトランクルームを借りて、少しずつ荷物を移動させていました」