「がん」ができるまでの過程

 人の身体は約37兆個の細胞からできていると考えられている。そのうちの一部の細胞は、日々、死んだり生まれ変わったりを繰り返している。その生まれ変わった一部の細胞が、がんの原因となるのだ。

 新しい細胞ができるとき、新しい細胞は、今ある正常な細胞の遺伝子情報をコピーして分裂し、同じものがつくられる。

 しかし、さまざまな原因で、今ある正常な細胞の遺伝子情報を正しくコピーできずに、異常な遺伝子を持つ細胞ができることがある。また、喫煙やウイルス感染によっても遺伝子異常が入ることがあって、ミスコピーが積み重なると、正常な細胞とは異なる細胞が生まれるそれががん細胞」

 正常な細胞は増えたり減ったりが厳密にコントロールされているが、がん細胞は無秩序に急激に増殖してしまう。そして、増え続けたがん細胞が何年もかかって大きなかたまりになったもの。それががんなのだ

 難治がんには、さまざまな種類があるため、危険因子(リスクファクター)もそれぞれのがんによって異なるが、明確なものはほぼない。その中にあって、膵臓がんには危険因子と考えられるものが、いくつか挙げられるという。

「肺がんなどの場合、DNAを検査することで、喫煙が原因で肺がんになったかどうかを判定できる時代になっている。膵臓がんの場合は、因果関係をそこまで科学的に証明しているわけではありませんが、膵臓がんに喫煙者が多いというデータは出ている。

 また膵臓がんには遺伝性、家族性膵臓がんというものがあります。これはある特定の遺伝子に傷が入ると膵臓がんになりやすいというものです」

 女優のアンジェリーナ・ジョリーが2013年に『がんを予防するため健康な両乳房を切除した』という衝撃的なニュースを覚えている読者もいるだろう。

 彼女の場合、BRCA1という遺伝子に変異が見つかり、その結果、生涯で乳がんが発症するリスクが87%あるとの診断を受け、乳房を切除したのだ。

 人間は父親と母親から1つずつ遺伝子を受け継いだ1対(2本)の遺伝子を持つ。がん遺伝子に対するブレーキ役の遺伝子(抑制遺伝子)にも1対2本の遺伝子があるのだが、アンジェリーナは、そのブレーキの遺伝子(BRCA1)の1本が壊れた状態で生まれてきていた。

 1本がもともと壊れているため、もう1本が壊れてしまうと卵巣がんや乳がんになりやすくなるというわけだ。

「これと同じように膵臓がんにも遺伝子変異が見つかるケースがあるということです」