治療法確立が期待される全ゲノム解析

 原因が解明されず、治療法も確立されていない難治がんだが、明るいニュースも。

「国立がんセンターが中心となって行う『全ゲノム解析』が今年スタート予定です。これは、がん患者の全遺伝情報(ゲノム)をすべて調べるというものです」

 現在、保険適用になっているゲノム治療にパネル検査があるが、この検査で調べているのは、全ゲノムの0・01%ほどにすぎない。今回の全ゲノム解析で、患者の遺伝子変異を明らかにすることにより、難治がん患者のひとりひとりの体質や病状に合わせた治療薬開発や治療法の確立のヒントや解答を得ることが期待されている。

 また同センターでは難治がんを含めたがん患者への精神的ケアも行っている。

がん患者さんにとって情報不足は不安を招く原因のひとつです。正しい情報をある程度、知っておくことも重要だと考えています」

 がん情報センターでは患者さん向け冊子(ダウンロードも可能)を各がんごとに作成し提供。また、「膵がん教室」など、それぞれの患者会と連携しつつ医療者を交えての勉強会も実施。このほか、「精神腫瘍科」や「がん相談支援センター」など患者や家族、遺族までの心のケアのため、相談窓口を設けている。

 難治がん患者の現状は、決して明るいものではない。日本においては、今後も国と研究機関と患者が連携した積極的な取り組みが難治がん患者の希望だろう。しかし、難治がんを治るがんにするためには、研究予算が必要だ。

 国の予算をあてにするだけではなく、例えば、英国にはキャンサーUKという患者団体があるそこでは広く寄付を募り、自ら研究所を立ち上げ、新薬開発に乗り出すという民間の力も出てきている

「これからの難治がんの研究開発には、英国のような民間の力も必要だと思います」

 国に頼るだけではなく寄付や投資をするなどの民間の活動が、今後の難治がん研究のための大きな力となることは間違いない。

がんゲノム医療」って?

 ゲノムとは身体をつくるための、いわば設計図のようなもので、ひとりひとり異なる

 主にがんの組織を用いて、多数の遺伝子を同時に調べ、がん遺伝子パネル検査(合う薬があるかどうかを調べる検査)で、がんが持つ遺伝子変異(遺伝子がなんらかの原因で後天的に変化することや、生まれもった遺伝子の違いのこと)を明らかにすることで、体質や病状に合わせて治療を行う医療をがんゲノム医療という。

取材・文/松岡理恵 


お話を伺った先生 西田俊朗先生
国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院院長。1981年大阪大学医学部卒業。専門分野は胃外科。大阪大学医学部附属病院教授、大阪警察病院の副院長・外科系統括部長、国立がん研究センター東病院院長などを歴任し現職。