『後妻業』(黒川博行)という小説がある。独身の高齢男性に財産目当てで近づき、あの手この手で死に追いやって儲ける女たちを描いたものだ。映画やドラマにもなり、大竹しのぶや木村佳乃が演じた。最近では『科捜研の女』でも、それっぽい役を鶴田真由がやっていたものだ。

世間の悪評は“若さゆえの無知”のせい?

 そんな企みをリアルで実行しようとしているのではと怪しまれ「悪妻」呼ばわりされたのが加藤綾菜だ。今から9年前、23歳のとき、68歳の加藤茶と結婚。自分の祖母と夫が同い年になるという年の差45歳婚は、世間に「財産目当て」というイメージをもたらした。それゆえ、初デートには加藤茶の友人である小野ヤスシさんと左とん平さん(ともに故人)がついてきたという。「絶対に騙されてるから、俺たちが確かめてやる」というのが理由だ。

 このエピソードを披露したのは、昨年出演した『しくじり先生』でのこと。彼女は悪妻呼ばわりされた原因をいろいろと分析した。まずは、家族にも内緒で入籍して、世間にも公表しなかったことだ。これはバツイチだった夫の「もう2回目だし、バレないから大丈夫」という意向からだったという。

 続いて、テレビのバラエティーに初登場したときのファッションが槍玉(やりだま)に。イエローのフリフリワンピースが、チャラい印象を与えた。さらに夫のブログに料理の写真を載せたところ、それが揚げ物中心だったため、炎上。週刊誌には《加藤茶 騒然!愛妻手料理『寿命が縮む!』》という記事を書かれたりした。実際には、夫の好みに合わせただけだったというが、そんな食生活もたたってか、結婚4年目に夫が大病で倒れてしまう

 '06年に患った大動脈解離の薬の副作用からパーキンソン症候群になり、体重が57キロから38キロに。このままだと一生、透析をしなくてはならなくなる、と宣告されたのである。そこで彼女は、気持ちだけでも元気になってもらえたらと、志村けんとの共演動画を見せた。映画監督役の志村を相手に、旅回り役者に扮した加藤がボケを連発する“階段落ち”のコントだ。

「見せたら、笑ったんですよ。加トちゃんも絶対、元気になってまた舞台に復帰しようね、って言ったら、うなずいて」

 これにはちょっと感心させられた。夫の芸、そして芸人の生理とでもいうものを、彼女がちゃんとわかっている証だからだ。

 思えば、彼女が悪妻呼ばわりされたのは、若さゆえの無知によるところも大だった。ファッションしかり、料理しかり。『しくじり先生』の前月には『ダウンタウンなう』で、結婚直後、ディズニーランドのスペースマウンテンに一緒に乗りたいとせがんだ話もしていた。'06年に心臓の大手術をした夫はもちろん乗らなかったが、下手をすればそこで人生が終わっていたかもしれない。

 その番組には、加藤茶も出演して、90歳くらいまで現役で仕事をしていたいと語った。彼女が悪妻イメージを完全に脱却するには、夫に長生きしてもらうしかなさそうだ。

(文/宝泉薫)


宝泉薫 ◎アイドル、2次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。近著に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)