なぜ違法薬物にはまるのか

 昨年、「桜を見る会」の話題が華々しかったころ、ピエール瀧さん、元KAT-TUNの田口淳之介さん、沢尻エリカさんなどの芸能人が、矢継ぎ早に違法薬物関連で逮捕された。ちまたからは「政府への批判が強まると、芸能人が違法薬物で逮捕される」という声も聞こえるほどだった。

 11月にはタレントの田代まさしさんが覚せい剤取締法違反で逮捕されている。薬物ではなんと5回目の逮捕だった。「あんな有名な人が、なぜ?」「いい気になって、遊び半分で手を出したんだろう」と思った人も多かっただろう。しかし、実際はそんな簡単なものではない。

 誰もが依存症になる可能性があるが、誰でもお酒や薬にハマってしまうわけではない。「生きづらさ」を抱えた人が、依存症になりがちだ。

 田代まさしさんは、昨年の夏に出演したNHKの番組『バリバラ』でこう語っていた。

1週間に12本のレギュラー番組。そのすべてで『面白いこと』を言うことを期待されて、それが苦しかった

芸能界という荒波を必死に泳ぎ続けて、このままだと溺れ死んでしまう……と思ったとき、目の前に『違法です』って書かれた浮き袋が流れてきた。死にたくないからつかまってしまった。また離せばいいや、自分でやめられる、って思っていた

 華やかに見える芸能界だが、仕事を続けていくプレッシャーは想像もつかないほど大きいものなのだろう。

 芸能人でなくても、生きづらさを抱えた人はいる。わたしは、2007年から足かけ10年、奈良少年刑務所で受刑者に絵本と詩を使った教室の講師をしてきた。ここには、違法薬物で服役している受刑者たちが多くいた。聞いてみると、そのひとりひとりに、必ず虐待や貧困、発達障害などの壮絶な背景があった。ある少年は、こう話してくれた。

薬物をやっているときだけが、自分が自分らしくいられました。ばらばらになった自分が、ひとまとまりになっていると感じたんです」

 家庭や学校でひどい目にあって、そのつらさから逃れるために違法薬物に手を出したという。一瞬の安らぎが欲しかったというのだ。そうでもしないと生きていけなかったと。

でも、そのうちになにがなんだか、わからなくなってしもて

 生きのびるために、手を出した薬物だったのに、やがてそれが自分をめちゃめちゃにしてしまう。薬物のために生きるようになってしまうのだ。薬物を得るためなら、どんなことでもするし、どんな嘘でもつく。薬物欲しさに、盗みを働くようなことにもなっていく。

 彼らが薬物に手を出した年齢を聞くと、13歳、14歳、15歳という驚くべき答えが返ってきた。そんな子どもに、違法薬物を手渡す大人がいる。薬漬けにして、金づるにしている。違法薬物の蔓延(まんえん)は、少年たちだけの責任ではない。