「親に言うのは嫌だったので、担任に相談したんです。最初は『家に帰りたくない』と話していました。ただ、児相に対しては、兄をかばう気持ちがありました。兄は、部活の顧問から理不尽な指導をされていて、相当ストレスが溜まっていたようです。『兄も大変なんだから仕方がない、私が我慢していればいい』と思いました」

 とはいえ、学校としては美葉の環境を改善するべく、すぐさま児相に通告。いざ、児相の一時保護所に行ってみると、美葉は居心地のよさを感じた。

「家族に縛られずに生活できるのがうれしかった。職員と一緒にいた子どもたちは、すごくいい人でした。家族より居心地がいい。保護所にいる子たちは、つらいことがあってここにいる。そう思うと私と同じ境遇なわけで、心で繋がっている気がしたんです」

 保護所での生活を経験し、美葉は将来、一時保護所の職員になることを夢見た。当時の職員とは今でも連絡を取りあい、ケアもしてくれ、精神面では親以上の存在となっている。

 それなのに美葉は5月末に自殺予告日をツイッターでつぶやいだのだ。予告をした日は、当時の担当職員が勤務している日でもあり、薬を飲んだあと意識のあるうちに「ありがとう」と言えるかもしれない、そういう目論見もあった。

 そして予告日。

 美葉は過剰服薬を実行するとツイッターでつぶやいたが、フォロワーに止められ、ためらった。そのことをさらにつぶやいて以降、ツイートが更新されないため、(筆者が)DMを送ってみると実行しなかったとの返事がきた。しかし1か月後、結局、彼女は過剰服薬をして入院していたことがわかったのだ。美葉に連絡をしてみると、

「OD後に、一時保護所の職員と連絡が取れて、入院できてよかったです」

 とは言うが、結果的に、周囲の大人たちは彼女を止めることはできなかった。

美葉さんのカバンに付けられたヘルプマーク
美葉さんのカバンに付けられたヘルプマーク
すべての写真を見る

 ストレスがたまる家にずっといることに耐えられず、方法は危険を伴ったが、美葉は希望どおり家を離れることができたが、果たしてこれでいいのだろうか。

「いつか何かをやらかしそうで怖いんです。でも、死ぬのも怖い。座間市男女9人殺人事件が発覚したころも病んでいたので、犯人とつながっていたら、自分もついていったでしょうね。殺してもらえるならそれでいいと思っていたので、被害者の気持ちはわかる気がします」

 と言う美葉は、希望どおり入院できたとしても、常に心の中で「死」が同居しており、危険な心理状態は続いたまま。家族との関係が変わらない中、今後は福祉や医療がどう関わり、美葉のように「自殺願望」を抱く少女たちをいかに救うかが、今後の課題となるだろう。


渋井哲也(しぶい・てつや)◎ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。東日本大震災以後、被災地で継続して取材を重ねている。『ルポ 平成ネット犯罪』(筑摩書房)ほか著書多数。