さらに、安心できる材料がある。

 JR東海の旅客運輸収入は、景気拡大を追い風として、この10年で約3割も増加している。経営体力が大幅に強化されただけでなく、東海道新幹線の利用者が増大したことで、リニア中央新幹線の開業効果も大きくなった。事業環境は好転した。

 また、リニア中央新幹線の建設に財政投融資が活用されることが決まり、総額3兆円を約30年間固定・低利で借り入れた。これにより金利上昇のリスクがなくなった。

それでも拭えない不安要素

 ところが、新型コロナウイルスが事態を一変させる。

 東海道新幹線はビジネス利用が多い。東海道新幹線の利用者は激減しているが、それだけビジネスマンが出張を控えたということだ。この経験は、多くのビジネスマンにとって出張を見つめなおす機会となった。わざわざ出張しなくても、Web会議で十分な場面が多いことを学んだのだ。

 直接会うことで、相手の状況を深く理解できたり、何気ない会話が課題解決のヒントになったりもする。出張の重要性も再認識されたが、Web会議は、移動によるロスもなく、会議室を探す手間も必要なく、効率的に設定できる。

 出張はゼロにはできないが、出張を大幅に減らしても、生産性を下げることなくビジネスを遂行できることが分かった。これが多くのビジネスマンが得た知見であり、私自身の実感でもある。そうなると、ワクチンや治療薬が開発されたとしても、今までの出張需要が戻るとは思えない。

 JR東海の運輸業を黒字ベースにするには、最低でも、ドル箱の東海道新幹線を前年比5割にまで回復させる必要がある。その最低ラインですら、現在の状況を考えれば楽観できない。

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【写真】わざわざ見に訪れる人も多い、リニア実験線の絶景スポット

 では、東海道新幹線が十分に回復しないとどうなるか。

 品川~名古屋で建設中のリニア中央新幹線は、もはや開業させるしかない。しかし、長期債務は膨れ上がり、その返済計画が狂うことになる。そうなれば、大阪延伸は着工できないだろう。それどころか、ローカル路線の維持すら問題になりかねない。

 「東海道新幹線会社」と言われるJR東海だが、営業距離では在来線が東海道新幹線の約3倍もある。その一つ、豊橋から駒ケ根、辰野へと至る飯田線は、「飯田線秘境号」が走る路線だ。どのような路線か想像できるだろう。同じように、東海地方から山間部へ向かう路線では、身延線、中央本線(中央西線)、高山線といった長い路線がある。

 東海道新幹線の危機は、地方の鉄道へと波及する可能性も。

 JR東海は、9月末決算でも赤字が避けられず、年度末決算の見通しも厳しいと思われる。この企業の先行きは、社会に大きなインパクトを与えるだろう。これからも注目を続ける必要がある。


文)佐藤充(さとう・みつる):大手鉄道会社の元社員。現在は、ビジネスマンとして鉄道を利用する立場である。鉄道ライターとして幅広く活動しており、著書に『鉄道業界のウラ話』『鉄道の裏面史』『明暗分かれる鉄道ビジネス』がある。