11月23日に開かれた日本相撲協会の横綱審議委員会が、白鵬と鶴竜に「注意」という決議を出したことが相撲ファンの間に波紋を広げている。

 波紋の理由は、休場の状況や優勝回数などの状況が違うふたりを十把一絡(じっぱひとからげ=無差別にひとまとめにすること)のように扱って同じ「注意」としたこと。しかも、過去に8場所連続休場、不戦敗を除く8連敗と、今の白鵬、鶴竜より状況が苦しかった稀勢の里のほうが1ランク軽い「激励」であったりしたことからだ。

個人競技である大相撲で連帯責任?

 横綱審議委員会が出す決議には上から「引退勧告」「注意」「激励」とあり、強制力はないものの「事実上の最後通告 全会一致」と報じた新聞もある(朝日新聞11月24日社会面)。

 ちなみに過去2年で白鵬は2回優勝、全休は3回で、10日目以降の途中休場が2回、前半に休場したのは2回。

 鶴竜は優勝が1回で準優勝も1回、全休が2回で、前半に休場したのは5回。

 稀勢の里は横綱在位が2年未満だが、全11場所中、優勝1回で、フル出場は1回、全休4回、前半での休場は5回だった。

 もちろん2横綱とも休場は多いが、稀勢の里が休場を繰り返していたとき、口頭で「頑張ってほしい」「これからの成り行きを見て判断」としていた横審なのであれば、同様であるのがふさわしい。

 こうした差に、海外に出自を持つ力士に対する差別ではないか?という声も大きい。脳科学者の茂木健一郎氏も自身のブログで、

《さらにまずいのが、外国出身の力士に対する差別、偏見ととられかねないことで、今回の白鵬、鶴竜の両横綱に対する「注意」を、稀勢の里に対する温情と比較するとその感を強くする。

 たとえ、横審としてはそんなことはないという認識だとしても、結果として外国人差別に見える。これは、今はコロナで一段落しているとはいえ、外国の方々からも熱い支持を受けている大相撲としては、かなりまずいのではないかと思う》

 と書いている。

 さらに《白鵬と鶴竜では休場日数に違いがあるのに、同じ措置がとられたのは、2横綱の連帯責任を問う決議があったから》(東京新聞11月24日)との報道を読むと、個人競技である大相撲で連帯責任というのは意味が分からない。ふたりがモンゴルに出自があるからでは?と見たくなる。もし、連帯責任を問うならば、過去の横綱たちもみんな連帯責任にすべきだった。

 また横審は「今は横綱の責任がより重くなっていると思います」と稀勢の里より厳しい決議をした理由を述べたが、これは稀勢の里にはもちろん、過去の全横綱に失礼な発言である。過去の横綱の責任は軽かったのだろうか? 双葉山は? 大鵬は? 北の湖は? その責任は軽かったのか? その時代ごとに多くのものを背負ってきた横綱という地位を、横審自らが貶めていることにどうして気づかないんだろうか。そもそも、何を理由に「より重く」なっているとしたんだろう。その理由をきちんと述べてほしい。

 前述の茂木さんのブログでは《いちばんまずいと思うのは、横審の出すメッセージが精神論、印象論に偏っていることである》とあるが、これだけエビデンスに基づかず、統一性がなく、判断の基準が一切ない今の横審がコンプライアンス的に成立すると、相撲協会は判断しているのだろうか。横審こそ、まずはコンプライアンス委員会にかけてもらいたい。

 さて、今回、相撲ファンたちが大きな声をあげたのには、影に大きな理由がある。それは鶴竜の今後のことだ。