児童手当のカットで「子育て罰」が強化

 そもそも日本の子育て世帯は、「子育て罰」ともいえる厳しい仕打ちを受けている状況だ。児童手当の削減案はその強化につながる、と末冨さんは言う。

子育て罰」とは、立命館大学の桜井啓太准教授ら貧困問題に詳しい研究者が使い始めた言葉。もともと国際的に、子どものいる女性の賃金が低くなる現象があり、「チャイルド・ペナルティー」と呼ばれていた。

 さらに日本では、収入が低いシングルマザーなどが税金・年金・社会保険料を負担しているのに十分な支援を受けられない状況にある。これを「子育て罰」と名づけたのだ。

「一方、年収910万円以上の親たちも第2次安倍政権による高校無償化の対象からはずされ、大学の貸与奨学金も借りられないなど、まったく支援を受けられない“子育て罰”を受けています。今回の児童手当の問題は中所得や高所得の人たちへの子育て罰を拡大するもの、と私はとらえています」(末冨さん)

 社会全体に余裕がなくなっている今、都会での子育て環境は厳しいものがある。

育児と両立させて頑張って働いても恩恵ナシでは、女性活躍の妨げに ※画像はイメージです
育児と両立させて頑張って働いても恩恵ナシでは、女性活躍の妨げに ※画像はイメージです
【画像】日本の子育てにおける「ケチさ」がグラフで丸わかり

「私もベビーカーを蹴られたことがありますよ。そんな冷たい社会でみんな子育てをしながら、稼いでいるんです。収入が多かろうが少なかろうが、必死で稼いで納税し、社会を支え、しかも未来を担う子どもまで育てている。なのに、何も応援してもらえない。これのどこが少子化対策だというのでしょう」(末冨さん)

親たちを苦しめる教育費という元凶

 とりわけ日本の子育て世帯を苦しめているのが、のしかかる教育費の負担。なかでも大学進学費用をどう工面するかが悩みの種となっている。「大学なんて、国公立に行けばタダ同然」というイメージが昭和生まれの祖父母世代にはあるが、現状は厳しい。

教育費の家計への負担は重く、コロナ禍で中退の増加も懸念される ※写真はイメージです
教育費の家計への負担は重く、コロナ禍で中退の増加も懸念される ※写真はイメージです

 文部科学省によると、1975年には国公立大の入学金が5万円、学費は年間3万6000円だったのが、その後ぐんぐん値上がりして、2005年からは入学金28万2000円、学費は年間53万5800円に。国立大に進学しても4年間で240万円以上かかってしまう。私大の場合、大学や学部にもよるが、文系でも国公立大の倍はかかるのが一般的だ。

 子育て世帯は、この費用をひねり出すべく、児童手当をコツコツ貯めるなどして工夫をこらしてきた。しかし、今後、収入によってはそれも奪われてしまうことに……。

 こんなに各家庭で教育費がかかる理由は、教育に対する公的支出が少ないから。OECD(経済協力開発機構)が’20年9月に発表した調査結果によると、’17年の教育への公的支出がGDPに占める割合は、日本は2・9%。38か国中37位という低いレベルにとどまっている。

1人の女性が15歳から49歳までに産む子どもの数の平均を示す「合計特殊出生率」と照らし合わせてみると、日本をはじめ、少子化が社会問題になる国ほど教育費をケチっている傾向が。 主なOECD加盟国のGDPに占める教育への公的支出の割合※OECD「図表でみる教育2020」より編集部作成
1人の女性が15歳から49歳までに産む子どもの数の平均を示す「合計特殊出生率」と照らし合わせてみると、日本をはじめ、少子化が社会問題になる国ほど教育費をケチっている傾向が。 主なOECD加盟国のGDPに占める教育への公的支出の割合※OECD「図表でみる教育2020」より編集部作成

「一方、ヨーロッパでは、子どもは親の所有物ではなく、独立した人格を持つ存在で、社会が育てるものという意識があります。だから親の所得に関係なく、国公立校の教育費は無償、または格安という国が多いです」(末冨さん)

 日本の高い教育水準は、各家庭の自己負担でなんとか支えられてきたのだ。しかし、これもそろそろ限界、というのが子育て世代の本音だ。