4人が生きたという「証」

 良行さんの講演の半年後、土田さんは定年退官したが、託された思いを胸に、今度は民間人の立場で何かできないかと考えた。

もう捜査はできないけど、チラシ配りなどで情報を集めることはできる。事件の捜査をして当時で7年、あと8年が経過したら15年で公訴時効が成立し、日本の警察の信用失墜につながる。人をあやめておいて、時効が成立することに対する理不尽さを感じていたので、民間人の立場なら法改正に向けて動けると感じました」

 時効制度に対し、同じように理不尽さを感じている遺族はいるはずだと考え、マスコミ各社の警察担当記者を通じて、殺人事件の被害者遺族に声を掛けてもらった。すると、世田谷一家殺害事件をはじめ、「柴又・上智大生殺人放火事件」(1996年発生)、「八王子スーパーナンペイ事件」(1995年発生)など16事件の遺族が集まり、2009年、良行さんを初代会長とする「宙の会」が結成された。時効制度の廃止に向けた活動は1年で奏功し、2010年の法改正で実現した。

 良行さんはこの2年後に他界したが、「宙の会」は活動を続け、現在は、殺人事件の被害者遺族への賠償を国がいったん立て替えたうえで、加害者に請求する「代執行制度」の導入を求めている。土田さんが語る。

「事件によって時効が撤廃されました。これは秩序維持という観点で大きな成果。何より、4人が生きたという『証(あかし)』になります」

宮沢みきおさん一家。くまのぬいぐるみに着せたセーターは、にいなちゃんが作ったという
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