飽きさせないジャンルの豊富さ

 井出作品の読者からすれば夢も見たいけど夢物語ではなく、現実に自分や身の回りの人たちにあり得る話。それが漫画として、自身に重ねつつ第三者の目でも見られる。

 女というものの本質、正体、本性。自分のそれを見たくない、目をそらしたいと思う反面、つい覗き込んで突ついてもしまうもの。

「私にもある」「私にはないわ」「こうしたい」「これはしたくない」「こんな男に愛されたい」「こんな男に翻弄されたい」レディコミは、大人の少女漫画だ

イギリスの著名な漫画研究家でありジャーナリストのポール・クラヴェットさんと。井出さんの漫画は大英図書館でも展示された
【写真】世界中で即完売状態になった『GUCCI』とのコラボレーション商品

「20年近く前、ぶんか社から『ザ・離婚』なる漫画誌を出してたんですが。それには井出さんの人気作品を、再掲載してたんですよね」

 井出智香恵作品を早くから読み、仕事をしたいと願っていた編集者の一人に、ぶんか社の後迫直樹さんがいる。

でも僕が立ち上げた漫画誌『本当にあった主婦の体験』には、念願の書き下ろしをいただきました当時の井出さんは本当にレディコミ女王で、巻頭カラーしか描かなかったんですよ表紙に井出さんの名前があれば、売れたんです

 レディコミといえばまずは、女のエロとエゴが渦巻くドロドロの世界、と定義する人もいる。現に嫁姑問題、ご近所トラブルといった煽り文句が表紙には並んでいる。

 恋愛だってレディコミでは、泥沼の不倫や性欲むき出しの浮気の方が正統派となる。

 正直、稚拙な絵柄とストーリーのそれも多い中、井出作品は物語の骨子もしっかりしていて、いそうでいない、いなさそうでいる、絶妙な人物造形も際立つそのうえ、絵柄はメジャーな少女漫画誌に載っているような華麗なものだ

 なおかつ性描写も生々しいのだから、トップになるのは当然ともいえる。

 今現在もレディコミ誌を作る後迫さんは、このように解説してくれた。

レディコミって、日本独自の文化というかつまりガラパゴス化しているんです漫画家も読者も入れ替わりがなく、そのまま持ち上がっていく

 読者は20代のころに自身を重ねる不倫や三角関係などを読んでいて、40代になっても読むのをやめず、嫁姑問題や夫の浮気などに興味をシフトさせていく

 レディコミを専門とする漫画家にとっても、安定した世界なんですメジャーな漫画雑誌での生存競争は大変だけど、レディコミ漫画家はその世界の中で生きていけるんです

 井出先生の得意なミステリーもですが、レディコミ世界でホラーだの歴史ものだの、性愛メインでないジャンルも開拓されていきました

 井出智香恵も後迫さんも、レディコミのブームは終わったというが、終わったというより落ち着いた、ということなのだと解釈もできる。

 現に、コンビニに行けば雑誌売り場の一角に、専門のコーナーみたいなものもある。本棚に飾らず読み捨てるものともいわれるが、ときにすごい掘り出し物、井出作品に迫るほどの傑作だって発見できるのだ。