画面の長時間注視で脳が劣化する原因に

 では、なぜスマホ認知症は起きるのか──。

「原因のひとつに考えられるのはスマホの画面を注視し続けることです」

 テレビより近い距離で小さな画面を長時間、見続けることで眼球運動の範囲が狭くなるのだ。

「目を動かさないと、画面以外に注意が行きづらくなる。実は私たちは目を動かすことで、脳のいろいろな場所を刺激しています。でも目を動かさなくなると脳の一部分しか刺激されない」

 結果、使っていない脳の部分が劣化し、衰えていく。

 さらにスマホに依存すると、外出も億劫になる。日光に当たらなければビタミンDが不足し、うつ症状があらわれたり、骨も弱くなって身体機能が低下。心身ともに弱ってしまうのだ。

 そしてスマホ依存が続けば、不眠症になる可能性も高まる。

「昼夜が逆転して睡眠リズムがおかしくなると、脳の働きが乱れます。また、高齢者が睡眠リズムを崩すと元に戻すのは難しい」

 もし、認知症患者がスマホを依存的に使っていた場合、その症状を加速させてしまうおそれがあるという。

「不眠は認知症のリスクを高め、症状を悪化させます。本来の脳は日々いろいろな刺激を取り入れることが健全なんです。毎日、同じことを繰り返すということは、どんなに高度な作業をしていても、脳の機能をいびつにしていくんですね」

 では、『スマホ認知症』は治療できるのだろうか。

「正確には認知症ではなく『スマホ認知機能障害』といいます。完治できない認知症と異なり、治療すれば元の状態に回復する可能性が高いんです」

 スマホが原因で起こる症状と認知症を見分ける方法はあるのだろうか。

「非常に難しいです。判断材料となるとすれば1日のスマホ使用時間でしょう」

 発症する連続使用時間の研究は行われていないが、1日中スマホばかりを使っていて、なおかつ前出の症状があるならば『スマホ認知症』である可能性が高いとみられる。

 高齢の両親が『スマホ認知症』かもしれない、と思ったらどうしたらいいのか。

「必ず医師と相談してください。荒療治として強制的にスマホを取り上げてしまえば、禁断症状が起きます。暴れたり、うつ状態になったり、非常に危険なことになります」