泰葉は「心が軽くなると嬉しい」

 遺伝や体質、生活環境など病気にはさまざまな原因があるが、双極性障害になる“原因”とは。

「双極性障害には『I型』と『II型』がありまして、I型というのがこれまでお話した躁状態が出る病気になります。II型はうつ状態をくり返した上に、“軽躁状態”というそこまで問題にならない状態のもの。今、原因の解明が進んでいるのが、主にI型の双極性障害です。これには、ストレスなどの環境因というよりは、体質というか、細胞レベルの機能の変化が関係していると考えられています

 一見、個々人のメンタルに起因する病のようにも思えるが、れっきとした細胞の病気であるという双極性障害。以前は、“こういう性格の人がなりやすい”という言説もあったが、研究によって、はっきりとした性格傾向は見られないということがわかっているという。

 治療としてはどのようなものになるのか。泰葉は投薬と通院という治療を行っている。

「私が研究をはじめた30年前は、治療薬が非常に少なく治療に難渋していたのですが、その後30年の間に次々といろいろな薬が開発されまして、現状では双極性障害を予防するための薬である『気分安定薬』と『非定型抗精神病薬』、これらを組み合わせることで、かなりコントロールできるようになりました。

 ただ双極性障害の予防療法というのは、薬物療法と“心理社会的治療”の2つが両輪となっています。いくら有効な薬があっても、その有効性を引き出すためには、“この病気である”ということを受け入れること。そういった心理的な治療が非常に重要となってきます」

 双極性障害という病気は、“完治”できるのだろうか。

「患者さんからもよく尋ねられますが、たとえば高血圧という病気は完治するのか。血圧が高いので降圧剤を飲む。すると血圧が下がる。それを飲んでいれば血圧は上がらないし、心筋梗塞や脳梗塞などにならないで済む。これは“完治”なのかということです。

 高血圧で降圧剤を飲んでいる人は、“自分は完治していない。完全に治りたい”とはいちいち言わないと思います。もし、薬をのんでいても特に副作用がなく、飲んでさえいれば症状もないようであれば、治ったも同然だと私は考えます。

 そういう意味では、高血圧と同じで双極性障害もコントロールできる病気です。1日1回薬を飲んで、何も症状が出ず、その後10年でも20年でも何事もなければ、治ったと言っていいのではないかと思います」

 今回、取材に応じてくれた泰葉のブログには、同じく双極性障害に悩む人からのメッセージが届くという。

「私がみなさまにできることはないんですけど、ただ、社会復帰もできる病気なので、治療を続けてほしいということと、お互い仲間同士という気持ちを持って、励まし合って、気持ちを共有していけたらと思います。苦しみだけでなく、喜びもあります。ちょっと身体がよくなるとうれしいんですよ。心が軽くなるとすごく毎日うれしいので、そういうことを共有していけたらと思います」(泰葉

 きちんと治療を続けることで、これからは奇行ではなく、きっと明るい話題を伝えてくれるだろう。