普通の集合住宅のように
住宅街に溶け込む

 筆者は高野さんに案内されて、4つの無料低額宿泊所を回った。

 そのうち2施設は一見、普通の集合住宅だ。よく見れば、自転車置き場に並んでいる自転車がやたら多い。おそらく部屋を細かく仕切って詰め込んでいる人数分の自転車なのだろうが、多くはカーテンで閉め切っているため、中の様子は窺えない。

 元社員寮らしい、大きな施設もあった。200人を収容しているという。プレハブの施設もあった。外観はいちばん見劣りするが、高野さん曰く、「ほかに比べると、まだマシなほう」だそうだ。

「入所者の友達みたいなふりをして中に入ったことがあります。食事は当番制になっていて、入所者が自分たちで作っていました」

 こうして、アパートや元社員寮などをまるごと借りて、そこに定員を遥かに超えた人数を押し込むというパターンが多いようだ。

 建物名はマンションっぽいカタカナ表記(実は事業者名)のものや、「川口寮」などと地名をつけた社員寮みたいな表記もある。どれも、普通の集合住宅として住宅街に溶け込んでいるので、近所の住民も実態には気づきにくいのだと思う。

 コロナ禍で病院や介護施設など「3密」を避けることが難しい施設ではクラスターが発生しやすいことを考えると、無料低額宿泊所こそ密もいいところではないだろうか。

「1回目の緊急事態宣言のときには、どの施設も新たな受け入れをしませんでした。感染者が出たら大変なことになりますからね。でも、今回の緊急事態宣言では受け入れているようです」

 もし、クラスターが発生しても、「無料低額宿泊所でクラスターが発生」などと発表されることはないのだろう。


林 美保子(はやし・みほこ) 1955年北海道出身、青山学院大学法学部卒。会社員、編集プロダクション勤務などを経て、フリーライターに。経営者インタビューや、高齢者・貧困・DVなど社会問題をテーマにした取材活動に取り組んでいる。著書にルポ 難民化する老人たち(イースト・プレス)、『ルポ 不機嫌な老人たち』(同)がある。