全部、ありのままで残すから
震災遺構として意味がある

 一方、裁判に参加しなかった遺族もいる。当時6年生の真衣さんを亡くした鈴木典行さん(56)だ。「もっと行政側と話し合いがしたかったんです」と話す。しかし、提訴までの時間が切れて、訴訟になったが、結局、鈴木さんは参加しなかった。現在は、大川小の被災を語り継ぐ「大川伝承の会」共同代表だ。

鈴木さんは震災後、趣味になった自転車を通じてできた全国の仲間に対しても大川小の悲劇を伝えている
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 校舎の保存に関して、「チーム大川」の子どもたちの声が届いたことに、「私たち遺族としても保存を希望していましたが、子どもたちの声は『母校を残してほしい』という純粋な思いでした」と話す。

 保存に関しては、当初は「解体」か「一部保存」だったが、「全部保存」という選択肢が入ったのは、鈴木さんの意見が反映されたという。

「遺族会会長をしていた当時、震災遺構整備計画を策定するときに呼ばれました。『全部壊す』『一部壊す』などが議論されていましたが、そこで『一部ではなんの意味もない。全部、ありのままで残すから震災遺構として意味がある』と主張しました

 石巻市としては最終的に、震災当時のありのままを残す「存置」保存となった。しかし、公開のあり方については決まっていない。

 鈴木さんは、東京五輪2020の聖火ランナーに選ばれた。「子どもたちが津波の犠牲になったことを忘れないでほしいからです。2度と、同じような悲劇が起きてほしくないと世界中に伝えたい」と鈴木さんは考えた。ランナーとしても応募し、内定した。亡くなった真衣さんの名札をつけて走ることにしている。

 しかし、新型コロナ感染拡大の影響で、延期となり、今夏の開催も不透明だ。

「依頼があらためて来ました。辞退をしようと思ったんですが、手を上げたころのことを思い出したんです」

 '21年2月21日、コロナ禍のため延期になっていたが原告団は仙台市内で判決報告会を開いた。

 前出の只野さんは、「この事件のいちばんの被害者は、守るべきはずの大人が守れなかった74人の子どもたちです」

 と述べた。

 今後、学校防災の論点で報告会を検討中だ。2度と悲劇が起きてほしくないという遺族の思いは、震災10年がたっても消えることはない──。


◇取材・文/渋井哲也(しぶい・てつや)◎ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。東日本大震災以後、被災地で継続して取材を重ねている。『ルポ 平成ネット犯罪』(筑摩書房)ほか著書多数。