少年の本当の気持ちが知りたい

 東は、そんな活躍の一方で、骨髄バンク啓発の活動を始めるようになる。

 きっかけは32歳のとき。自宅で情報番組を見ていると、画面に17歳の高校生が現れた。

「彼は白血病でした。私の故郷の因島の男の子で、余命いくばくもないかもしれないとナレーションが入りました。とにかく泣かす音楽と泣かす演出でした。けれど、その子は泣くでも怒るでもない。それでスタジオのアナウンサーが『病気に負けずに頑張ってほしいですね』と言ったんですね。『えー!』と思いましたよ。だって、頑張ってんじゃん。泣き言も言わずに」

 テレビの仕事を始めて7年。東はテレビの持つ巨大な力の強さをひしひしと感じていた。

 ところが、その情報番組は“お涙ちょうだいの演出”にすぎず、少年の真意はくんでいないと感じ、愕然(がくぜん)とした。

 少年の本当の気持ちが知りたくて、「居ても立ってもいられなくなった」彼女は、連絡先を調べ、彼の自宅に衝動的に電話をしてみた。

「少年のお父さんが出ました。けれど、全国から電話があったんでしょうね。『どうもありがとうございます』と言うだけで切られてしまいました。しばらくして、男の子の妹から私の元に分厚い手紙が送られてきたんです」

 手紙には、「骨髄バンク啓蒙(けいもう)のためのポスターを作ってほしい」と綴(つづ)られていた。それこそが少年がテレビに出て伝えたかったことだったのだ。

「だったら、番組でそのことを伝えるべきじゃないか。それはすごく申し訳ないことをしたなと思いました。私の番組じゃないけど、テレビ業界にいる人間としてね。これは完璧に作り手の課題だと思ったわけなんですね」

 東は、少年が出演した番組の担当者にも連絡を入れた。

「彼はなぜテレビに出たのか、そしてどうしてメッセージが伝わらなかったのかと尋ねたら、担当ディレクターから『テレビだよ、数字取らなきゃ』と言われました。それも正解ですよ。でも『数字も取りつつメッセージも発信する、両方できるんじゃないですか』と言ったら『まじめだね』と」

 骨髄バンクとは、白血病をはじめとする血液疾患などのため「骨髄移植」などが必要な患者と、骨髄を提供するドナーをつなぐ事業のことだ。

 厚生労働省の調査によると、日本では毎年新たに約1万人以上が白血病などの血液疾患を発症している。そのうち骨髄移植を必要とする患者は、年間2000人を超える。

 東が活動を始めたのは、日本で骨髄移植が実施される以前のことだ。自分が何か行動を起こさなきゃいけない、という衝動に駆られたと言う。

「何もしないということは、溺れている人を見て素通りするような感覚があった」

多くの出会いと別れがあった骨髄バンクの活動
多くの出会いと別れがあった骨髄バンクの活動
【貴重写真】東ちづる、芸能界デビュー前の短大生・会社員時代

 錚々(そうそう)たる一流の業界の仲間を集めてポスターを制作。プロのクリエーターたちによるモノクロ写真を使った斬新な仕上がりだった。病院、学校、企業に配布し、貼ってほしいと呼び掛けたが、想定外の壁に直面する。

「いろんなポスターが送られてくるから貼る場所がない、と断られるんですよ。そのとき、骨髄バンクがまったく認知されていないと知りました。  

 日本中の患者さんをつなげて、骨髄バンクを知ってもらうことが先決だと思い、関係者を探して連絡をとっていったんです」

 やがて患者会と連携して講演やシンポジウムなどを開催するようになる。しかし、「骨髄バンクについて語ろう」という趣旨のイベントを開いても、集まるのは関係者だけ。興味のない人をどう巻き込むかが課題だった。

「そこで思いついたのが、『泣いて笑ってボランティア珍道中!』というタイトルをつけ、さらに『芸能界の裏側まで話しちゃう!』というコピーで一般の人々を呼び込み、骨髄バンクの話をしてパンフレットを持っていってもらうという作戦でした」                                                                                                                                                                            

 芸能人による活動には、反発もあった。週刊誌などは、こぞって「売名行為だ、偽善だ」「パフォーマンスだ」という記事を書きたてた。

「そのときに闘ってくれたのが、所属事務所ではなく活動仲間でした。出版社に電話して『まったくパフォーマンスなんかじゃないですよ。東さんは全部自分で動いているんですよ』と言ってくれたり、手紙を出してくれたりしたんです。あ、大人になっても仲間ってできるんだと思いましたね」

 全国骨髄バンク推進連絡協議会元会長の大谷貴子さん(59)は、自身が白血病を発症し、ドナーから移植を受けたことから活動を始めた。彼女は、東をこう評価する。

「東さんは決して迎合しないし、ヘラヘラもしない。だから敵もいるけど、味方もたくさんいます。脳より先に足が動く人ですね。賢いんだけど、ずる賢いイメージの“クレバー”ではなく、“スマート”な人。だからダメなものはダメとはっきり言ってくれる。でも、とっても楽しい人でもあります」