「試合ができない時期が続いたので、練習で繰り返し4回転半ジャンプにチャレンジしていました。まだ跳べてはいないんですが、諦めてはいません。自分自身が納得したいというのが根本にあるんです。“これが最高の羽生結弦の完成形だ、理想の羽生結弦だ”というところにたどり着きたいと話していました」(前出・スポーツ紙記者)

 以前の羽生は違っていた。いつも口をついて出るのは“勝ちたい”“絶対負けたくない”という言葉だった。今は勝つことよりも、4回転半ジャンプへの思いが強くなっているように見える。

「今回は4回転半ジャンプは回避するしかなかったでしょう。でも、北京五輪のころにはワクチン接種も進んで、万全の調子で臨めると思います。絶対に4回転半にチャレンジするでしょうし、確実に決めてくれると思いますよ」(前出・坂本氏)

 4回転半ジャンプを意識しすぎたことが、マイナスに働いた部分もある。

「ショートプログラム後半のトリプルアクセルで、思わぬミスが出てしまいました。ジャンプ自体は高さもあってよかったのですが、顔が氷につきそうなくらい前のめりになってしまって……。羽生選手の中には、トリプルアクセルはこれくらいで上がって、これくらいで下りてくる、という身体に染みついた感覚があるはずなんです。

 しかし、今回のトリプルアクセルは、いつもより高さが増しているように見えました。4回転半を練習している中で生まれた筋肉が働いてしまい、いつもより上がってしまって着氷が乱れたんでしょう」(前出・佐野氏)

スポーツであって芸術でもある

 それだけ4回転半ジャンプに気持ちが向かっていたということなのだろう。4月12日に放送された『報道ステーション』(テレビ朝日系)のインタビューで、羽生はこう語っていた。

「今までは世界初の着氷者になればいいと思っていたんですけど、完璧な、4回転半も含めた、ランディングもきれいな、流れのある演技をしたいなと思います。僕らは採点競技ですから、スポーツでありながらも芸術をはらんでいるものだと思うんですよね。

 だから、スポーツとして極めたいという理由でアクセルを跳びたいということも、もちろんあるんですけど、芸術としてもアクセルを跳びたい

 成功が近づいているのは確かだが、目標を達成した後はどうするのだろうか。