絶頂時に引退する選手も多い

「4回転半を跳ぼうとしているうちは引退はないとは思いますが、フィギュア選手は絶頂の間に引退する場合が多いので、どうなるか……」(前出・坂本氏)

 最終目標をクリアしてしまえば、選手生活を続ける理由がなくなってしまうかもしれない。だが、羽生は後に続く選手たちに伝えなければならないことがあると考えているのだろう。

「ショートプログラムでは宇野選手の次の滑走でした。羽生選手は“聞くつもりはなかったけど点数が耳に入ってきた”と言っていましたね。宇野選手の点数が伸びなかったので、“こりゃいかんな”とは思ったでしょう。個人の成績も大事ですが、国を代表して順位を競う大会なので、僕が頑張らなきゃという思いはあったと思います」(前出・佐野氏)

 国別対抗戦が始まる前に各選手が意気込みを発表した際、羽生は「誰かの光になれるように」という言葉を選んだ。テレビ朝日のウェブインタビューページにはその理由をこう語っている。

《たとえ結果が良くなかったとしても、良い演技だったと納得できる演技じゃなかったとしても、誰かのためになれているのかな、という感じがして、それを常に心の中に持ちながら演技したいなと思ってこの言葉にしました》

 今の羽生は、自分のためだけに滑っていない。4回転半ジャンプを完成させて、後輩たちに“無言の背中”を見せることができるはずだ。