PTSDを発症するなど深刻な後遺症も

 被害者には、深刻な後遺症に悩むケースも珍しくない。前出の米倉さんによれば、

痴漢行為は、被害者に精神的・肉体的苦痛や人生への打撃を与えています。『男性と2人きりになるのが耐えられなくなった』『後ろに男性が立っているだけで不安になる』など男性への嫌悪や不信感、さらに『1人で外出できなくなった』『公共交通機関を使えなくなった』『うつになった』などPTSDに苦しみ、自傷行為や自殺を考えるほど追い込まれる人もいます」

誰にも相談できず、人知れず悩んでいる女性は少なくない(写真はイメージです)
誰にも相談できず、人知れず悩んでいる女性は少なくない(写真はイメージです)
【写真】Twitterで自らの痴漢被害を告白する藤田ニコル

 痴漢対策として、防犯グッズを活用する、電車内では混雑する出入り口付近には立たないなど、女性に自衛を促すポスターや動画も見かけるが、「そうした情報は有効ではありますが、そればかりだと“被害者に隙があるのでは”という風潮が生まれる危険性も否めません」と米倉さんは指摘する。

 女性がどんなに自衛をしても、加害者がいなくならなければ問題は解決しない。

 そもそも加害者たちは一体なにを考えているのか。

「世間では、“男性が露出の多い女性の姿を目にして、つい性欲を抑えきれずに痴漢をした”と思われがちですが実は、違います」

 そう加害者の心理を明かすのはこの問題に詳しい精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんだ。

痴漢加害者にとっては、逮捕されないことが最も重要です。そのためには、被害に遭っても訴え出なさそうなターゲットを虎視眈々と狙い、計画的に犯行に及びます」(斉藤さん、以下同)

 いわゆる「変態」が突発的にムラムラして、痴漢行為に及ぶわけではないのだ。

「その動機は、ひとことで言えば、“弱い者イジメ”です。日常で抱えている過度なストレスを痴漢という不適切な手段で発散し、そこで達成感や優越感を味わっています。そこには支配欲、ゲーム感覚やレジャー感覚、男性性の確認など、さまざまな快楽が複雑に絡み合い、より強い刺激を求めて“あと1回だけ”“もう少しだけ”と繰り返し、痴漢行為にハマっていくのです」

 さらに加害者には「女性側も痴漢をされたがっている」「声を上げないのは、実は喜んでいる証」など恐るべき認知の歪みが内在している。

「この背景には、歪んだ承認欲求や男尊女卑の価値観が横たわっています。古くから脈々と受け継がれてきた“男性は女性を下に見ていて、なにをしても多少なりとも許される”という考えの影響が加害者には、色濃く見られます。つまり痴漢は、男性側が真剣に考えなくてはならない性の問題なのです」