偶然かもしれない。気にしすぎだ─。幾度も自分に言い聞かせたが、なおも男性は離れる気配を見せなかった。

「怖いし、気持ち悪いし……。でも、もしも私がそこで騒いだらライブが中断して、メンバーやファンに迷惑をかけてしまう……。そう思うと声を上げられませんでした」

 しばらくして男はいなくなったが、和美さんは「ライブに集中できなくなってしまった」と無念の表情を浮かべる。

「後日、同じファンの友人たちに相談したら、似たような被害に遭っている子がいました。今でも、あの日、会場で流れていた曲を聴くとイヤな思い出が蘇ってきます……」

偶然をよそおい加害!ぶつかり男の正体

 すれ違いざまの一瞬を狙う卑劣な手口も多い。

「とっさのことで、なにが起こったかわかりませんでした」

 大手食品メーカーで営業職として勤務する桃内綾子さん(仮名・40代)は語る。

「昨年夏、駅構内を歩いていたときに向かいから来たサラリーマン風の男性がいきなりぶつかってきたんです」

 衝撃もさることながら、男性の腕が綾子さんの胸に強く当たったのだという。

「あまりに突然で声も出ませんでした。男性の顔を確認しようとしたのですが、すぐに人混みに紛れてしまいました」

 やがて行き場のない憤りが綾子さんに湧き上がってきた。

「これまでもバスや電車ですれ違いざまに腕を胸元に当ててくる男性がいました。母親に相談したら『そんな薄着をしているから』と逆に説教をされてしまいました。……私が悪いのでしょうか。今は、人混みを歩く際には、両手でカバンを抱きかかえるようにして歩いています」

スマホでわいせつな写真を見せる手口も

「非接触型」の痴漢も増えている。京都府に住む会社員の家入サクラさん(仮名・20代)は語る。

「会社帰りに電車で座っていたら隣の中年男性がスマホで、ひわいな画像をずっと見ているんです。スルーしましたが、ときおり私のほうに画面を傾けて様子をうかがってくる。気持ち悪いし、腹が立ってきましたね」

 後藤美姫さん(仮名・20代)は、3年前にエアドロップ痴漢の被害に遭った。

「エアドロップとはiPhoneの画像共有機能のこと。画像が送られてくると、その内容がプレビューとして表示されます。それを悪用した痴漢がいるんです。電車内で3回ほど、男性の局部アップの写真が送りつけられました」

iPhoneのエアドロップ機能。友人同士での写真のやりとりなどではとても便利な機能だが…(写真はイメージです)
【写真】Twitterで自らの痴漢被害を告白する藤田ニコル

 このエアドロップ痴漢、'19年8月には福岡県警によって当時37歳の男性が書類送検されている。同年、iOSの仕様変更によりサムネイル画像は表示されなくなったが、それでも、うっかり『受け入れる』をタップするとカメラロールに保存されてしまう。

「見たくもない画像を見せつけられたイヤな思いは、今も消えません」と美姫さんは顔をしかめる。

 痴漢に加え、盗撮被害も深刻だ。スマホのシャッター音が出ないカメラのアプリやペン型の超小型カメラなど手口も巧妙化。新たな性犯罪も後を絶たない……。