「情けは人の為ならず」

 時は流れて、その後、萩本さんはテレビ界で大人気になりました。

 一方、東師匠は、そんな萩本さんに「息子が本気で芸能界に入りたいと言ったら味方になってくれ」と、まだ18歳だった息子さんを残して、52歳の若さで世を去ってしまいます。

 その息子さんの名は東貴博(あずま・たかひろ)。そう、タレントの東MAX(アズマックス)さんです。

 萩本さんは東師匠の亡きあと、貴博さんの「芸能界での父親」になりました。貴博さんを自分の劇団に入れ、芸能界で独り立ちさせたのです。安めぐみさんとの結婚式には、「父親の代役」として出席までしています。

 人マネで、弁当のふたを差し出した萩本さんに、やれやれという顔をしながらも、中身をわけてくれた東八郎さん。東さんも、まさか、自分にそんなことをした萩本さんに、息子の未来を託すことになるとは思わなかったことでしょう。

 なんだか不思議な縁(えにし)……。「情けは人の為ならず」という言葉を思い出す話です。

(文/西沢泰生)
《参考:『欽ちゃんの、ボクはボケない大学生』(萩本欽一著・文藝春秋刊)》


【PROFILE】
にしざわ・やすお ◎作家・ライター・出版プロデューサー。子どものころからの読書好き。「アタック25」「クイズタイムショック」などのクイズ番組に出演し優勝。「第10回アメリカ横断ウルトラクイズ」ではニューヨークまで進み準優勝を果たす。就職後は約20年間、社内報の編集を担当。その間、社長秘書も兼任。現在は作家として独立。主な著書:『壁を越えられないときに教えてくれる一流の人のすごい考え方』(アスコム)/『夜、眠る前に読むと心が「ほっ」とする50の物語』『伝説のクイズ王も驚いた予想を超えてくる雑学の本』(三笠書房)/『朝礼・スピーチ・雑談 そのまま使える話のネタ100』(かんき出版)/『コーヒーと楽しむ 心が「ホッと」温まる50の物語』(PHP文庫)ほか。

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