罰金を設けるも“払えばいいんでしょ”な感覚

 アジアに目を転じよう。香港在住の男性(59)は、

 「街のあちこちにオレンジ色の灰皿がついたゴミ箱が設置されていて、その周辺で吸う人が多いですね。公園でもベンチのそばに吸い殻が落ちていて、英国の統治時代が長かった紳士的な国のイメージは皆無です」

 公共施設での喫煙を禁止する禁煙法が09年から全面施行されていて、公共の場で喫煙すると、罰金は1500香港ドル(約2万2500円)。

 高級店では禁煙が徹底されているが、「茶餐庁(チャーチャンテーン)」といわれる庶民的なレストランでは、夜、2階や小部屋で飲食をしながらたばこを吸う人たちが後を絶たず、店も容認している。「見つかったら、罰金を払えばいいんでしょ」の感覚のようだ。

「香港では禁煙の規則と罰則・罰金がセット。日本と違って、罰金がなければ自主的に規則を守る人はほとんどいないのでは」

 歩きたばこ、ポイ捨てが日常の光景だというのは、発展途上のイメージも残るインド。空港をはじめレストラン(屋内席)、オフィスなどでは禁煙が徹底されているものの、「噛みたばこと呼ばれるものが一般的で、信号待ち中の車やバイクから吐き捨てる姿もよく目にします」とベンガルール在住の女性(34)がため息をつく。

南アフリカのショッピングモールにて。あちこちにたばこのポイ捨てが
南アフリカのショッピングモールにて。あちこちにたばこのポイ捨てが

 インドと同様、「エリアによってマナーなどない」というのが、南アフリカだ。

「喫煙室以外の屋内空間すべてが禁煙で、喫煙者よりも店側への罰金が高くなったので、屋内禁煙は徹底されていますが、屋外や田舎、タウンシップ(旧黒人居住区)でポイ捨てはふつうです」

 と、ヨハネスブルグ在住の男性(61)。

 ビルの外に「禁煙」のマークが貼られていても意に介さず、たばこを吸う。吸い殻を路上に捨てたり、ゴミ箱に入れたりする人がことのほか多い。見かねて、入り口に灰皿を置くショッピングモールもあるそうだ。

「私の住んでいるのは、アフリカーナという白人が多い地域ですが、喫煙者が多いですね。私自身も以前喫煙していましたが、タウンシップで吸っていると、黒人に『たばこを回してくれ』と言われ、回したことが多々ありました」

マナーを守る日本人

 以上いずれも、海外在住者(+帰国者)の肌感覚を元にしたリアルな声である。香港在住者の「罰金がなければ自主的に規則を守る人はほとんどいないのでは」という言葉が印象的だ。

 日本の受動喫煙防止のルール(健康増進法)にも罰則規定があるが、「違反者がでた」というニュースはあまり聞かない。概して、日本ではマナーが守られているからだろうか。他国と比べると、冒頭の土田さんのように周囲への配慮をきちんと意識している喫煙者の割合が高いと言えそうだ。

 喫煙者の「マナーを守って吸う権利」を取り上げたり、逆にたばこを吸う人が非喫煙者に不愉快な思いをさせていては、お互いの溝が深まるばかり。喫煙者と非喫煙者がうまく“共存”していくために、さらなる喫煙環境づくりが求められる。

【取材・文/井上理津子(いのうえ・りつこ)】
1955年、奈良県生まれ。タウン誌記者を経てフリーに。著書に『絶滅危惧個人商店』(筑摩書房)、『葬送の仕事師たち』(新潮社)、『親を送る』(集英社)、『いまどきの納骨堂 変わりゆくお墓と供養のカタチ』(小学館)、『さいごの色街 飛田』(新潮社)、『遊廓の産院から』(河出書房新社)、『すごい古書店 変な図書館』(祥伝社)、『夢の猫本屋ができるまで』(ホーム社)などがある。