転機を与えられた「あなたは悪くない」

 転機が訪れたのは2015年10月。鈴木さんの半生を知った通院先の精神科の主治医が、こう断言したのだ。

「あなたは悪くない」

 この言葉に鈴木さんは驚く。

「およそ40年もの間、“私が悪い”と思っていたのに、先生は“圧倒的な力の差を利用した司祭が悪い”と言ってくれたんです」

 これを機に、鈴木さんは心に閉じ込めた記憶を徐々に取り戻し、やっと「あれは性虐待だ」との自覚を持つ。しかし、二次被害が待っていた。

 ’16年2月、鈴木さんは日本カトリック中央協議会に「子どもと女性の権利擁護のためのデスク」という救済窓口があることを知り、電話で事件を申告した。カトリック仙台司教区は第三者調査委員会を設置し、委員会はA司祭にも聞き取りを行い、調査報告書を10月19日にまとめた。

 だが11月11日に、鈴木さんが報告書の受領のため教会事務局を訪ねると、対応したH司教(当時)はこう言った。

「あなたは合意してやった」

 報告書の内容も「(A司祭は鈴木さんが)承諾したと誤信した」ので、刑事上も民事上も「責任を問うことは困難」で、教会内でも「(A司祭への)処分は公正とはいえない」と、A司祭を擁護したのだ。鈴木さんは怒りを通り越して悲しみで身体が震えた。

調査報告書では合意があったとして加害を否定、「司祭の処分はしない」と結論づけた
【写真】ローマ教皇の来日で「私はサバイバー」と掲げ訴える鈴木さん

 とはいえ、この時すでに、鈴木さんは闘いを始めていたのだ。そのきっかけは、救済デスクへ申告した直後の4月、公開されたばかりのアカデミー作品賞・受賞作『スポットライト』を見たことだ。

 アメリカ・ボストン市の地元紙が、地元の約90人の司祭が過去数十年間に数百人の子どもを性虐待したことを’02年にスクープ。それを機に、全米で約4万2000人の司祭のうち約3000人が性虐待の疑いで弾劾されたという実話を再現した映画だ。映画を見た鈴木さんは「被害者は私だけじゃない」と驚き、同時に「被害者を支える組織がある」ことを知る。鈴木さんは、映画に登場した『SNAP』(聖職者による性虐待サバイバーのネットワーク)のシカゴ本部(当時)に連絡し、自分の半生を切々と話した。すると、バーバラ・ブレイン代表は主治医と同様に「あなたは悪くない。ここまで生き抜いてきたことは素晴らしい」と、鈴木さんを全肯定した。

 この言葉に号泣した鈴木さんは、「私と同じように声を出せない人同士をつないで、被害を防ぐ」と決意する。

 そして8月、本部に認められ、『SNAP Sendai』を設立。鈴木さんは今、サバイバー(SNAPでは被害者をこう呼ぶ)やサポーターとともに月に2度、思いや体験を語り合うミーティングを重ねている。

ローマ教皇の来日に合わせ、鈴木さんは教皇の車が通る桜田門前で「私はサバイバーです」とのメッセージを掲げ訴えた