驚いた佳純さんは、反射的にこう尋ねてしまったそう。「もしそうなったらママとパパ、どっちについて行く?」と。筆者はこのような質問をされた子どもは大半の場合、母親を選ぶことを知っていたので、「奥さんを選んだんですよね?」と言うと、佳純さんは首を縦ではなく横に振ります。息子さんは「パパがいい」と答えたのです。ついに佳純さんは息子さんが自分より夫との絆が強いことを確信したのです。佳純さんは「こんなに精神的に追い詰められたのは夫や子どもたちのせいですよ。今の家族とやり直すより、ゼロから新しく人生をやり直したいというのが本音です」と断言。

 そのことを踏まえ、佳純さんは再度、夫と話し合いの場を持つことに。今度は自分から別れを切り出したそうです。これで離婚は避けられない状況に。

親権を夫に譲る際に条件を付けた

 とはいえタダで親権を放棄することは本来、許されません。なぜなら、佳純さんが非親権者となった場合、親権者の夫へ養育費を払わなければならないからです。もし、養育費の支払いが発生するのなら、佳純さんの言う「新しい人生」に重くのしかかります。

 佳純さんは子どもたちを育てる意志はなく、親権を譲る気でいましたが、それを知らない夫は「親権を奪われるのではないか」と恐れているはずでした。そこで「タダで親権を譲るのではなく、養育費の支払いを免除してもらうことを条件として提示すること」が効果的だと思われました。夫は親権を獲得すれば満足し、「養育費なし」の条件を受け入れてくれるかもしれません。なぜなら夫にしてみれば、親権の獲得と養育費の回収という二兎を追った結果、佳純さんが「やはり私が親権を持つ」と翻意するのは困るからです。

 佳純さんがこのことを踏まえ、「親権は譲るので養育費は諦めてくれないか」と夫に提案したところ、「子どもたちといられるのなら」と二つ返事で了承。こうして佳純さんは経済的にも独身時代に戻ることができたのです。

 家族を失っても新しい人生を手に入れたい。それが佳純さんの選択でした。例の彼には妻、そして9歳の息子さんがいるそうですが、お互いに配偶者の愚痴や不満、悪口を言い合ううちに意気投合。「離婚したら一緒になろう」と約束を交わしたそうです。

 芸能界で親権を手放した母親として思い出されるのは女優の中山美穂さんでしょう。2014年に離婚する際、父親である作家の辻仁成さんが息子さんの親権を持ったと言われており、今も子育て中のようです。Twitterには子育ての様子を定期的に公開しており、最近も《ぼくは息子と父子旅に出ました》(7月25日)、《息子にいきなり、犬を飼わない? と言われた。いつか、子供はいなくなるよ、と、、、ぎく》(7月26日)《シャキッと出来ない父ちゃんですが、明日は頑張ることにします》(7月29日)などと投稿しています。

 辻さんの子煩悩ぶりを見ると、人には向き、不向きがあるのだと実感します。そして母親と別れ、父親に引き取られたからといって、子どもが必ずしも不幸というわけではないでしょう。そう考えると一般人においても、一概に親権を手放した母親の選択を責めるわけにはいきません。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/