国は規制をしなかった理由について、“遺伝子を壊したかどうか、作られた食品から検証ができないから”だと述べています。しかし、それは理由になりません。開発企業に対して、壊した遺伝子がどこかを示させればいいだけの話ですから。

 厚労省が届け出を義務づけなかったため、食品表示の前提条件がなくなり、消費者庁も食品表示をしないという決定をしました。表示がないと、目の前のトマトやマダイがゲノム編集技術を用いて遺伝子を操作した食品かどうかを知ることができません。

ゲノム編集食品表示のルール。安全審査も要らず、国に届け出さえすれば表示の義務もない
ゲノム編集食品表示のルール。安全審査も要らず、国に届け出さえすれば表示の義務もない
【写真】ゲノム編集により肉厚になった養殖マダイ

 また農家が購入する種苗(しゅびょう)にも、家庭菜園用に販売している種苗にも表示がありません。このままでは農家や一般の人が知らないうちに栽培してもわからないのです。

 遺伝子組み換え作物の場合は、国内での栽培が行われていませんので、問題は起きなかったのですが、今回は国内で種苗が販売されるため、栽培したくなくても栽培してしまう可能性が出てきたのです。

ゲノム編集食品を避ける方法は?

 ゲノム編集食品は現在、日本ではトマト、米国では大豆の栽培が行われているだけですが、間もなくこれにマダイが加わります。今後も国内でさまざまなゲノム編集作物や、家畜が登場することが予想されます。

 米国でも続々と新たな作物や動物が開発されており、そう遠くない日に私たちの食卓に登場するかもしれません。規制がないため、知らないうちに食べることもありえます。

 それを避けるために、消費者や農家の団体の間で、種苗への表示を求める声が強まり、署名も広がっています。種苗に表示されれば、農家が間違って栽培することもなく、食品になる際もわかるからです。この署名運動の広がりを受けて、農水省も種苗への表示について検討を開始することになりました。

 さらには、国の結論を待っていたのでは遅いという消費者や農家の声を受けて、自主的に表示を行う取り組みも始まりました。

 それが『OKシードマーク』で、種苗にゲノム編集など遺伝子操作をしていないことを示しています。いくつかの生協でも、食品に「遺伝子組み換えやゲノム編集といった遺伝子を操作していません」という自主的な表示を行う取り組みが始まろうとしています。

 今すぐにできる対策もあります。トマトは『シシリアンルージュ』というミニトマトの遺伝子を操作し、GABAが多いことを売り物にしていますので、健康によいとかGABAが多いといったキャッチフレーズに気をつけてください。

 大豆に関しては、国産であれば安心です。食用油では高オレイン酸を謳っているものは要注意。はマダイの国内養殖には気をつけましょう。外食の場合は店の人に確認してみてください。

執筆/天笠啓祐(あまがさ・けいすけ)●ジャーナリスト。日本消費者連盟の共同代表のほか、市民バイオテクノロジー情報室で代表を務め、環境・食品問題に取り組む。近著に『ゲノム操作と人権』(解放出版社)