次の夢はアフリカでお笑い!

「仕事が終わればすぐ帰るし、次の仕事まで1時間でも空けば、いったん家に戻ります」

 2013年、都心に一戸建てを購入。女性誌で、《パックン、2億円豪邸を新築!》と騒がれたほどだ。

 家が大好きなマイホームパパは、近所の人とも親しく付き合っているという。

 そのひとり、ジャーナリストで上智大学非常勤講師のトニー・ラズロさん(60)は、「彼とはよくチェスを楽しみます」と話す。

「チェスは性格が表れます。彼は奥の奥まで研究してはいないけど、勝てるところまではわかっている」

 ちょっと哲学的だが、実はトニーさん、ベストセラーコミック『ダーリンは外国人』(小栗左多里さん著)のダーリンのモデル。漫画のとおり、トークが味わい深いのだ。

 トニーさんが続ける。

仕事の移動は愛車のバイク。空き時間が少しでもあれば、自宅に帰れる身軽さがお気に入り 撮影/伊藤和幸
仕事の移動は愛車のバイク。空き時間が少しでもあれば、自宅に帰れる身軽さがお気に入り 撮影/伊藤和幸
【写真】さわやかなルックスのハーバード大学時代

「僕は自宅で家庭菜園をしていますが、パトリックもよく覗きにきます。僕らは互いの家族だけでなく、近所の子どもたちにも声をかけて野菜を作ります。そのとき、パトリックが特徴的なのは、『こんなとき、どうしたらいい?』と子どもたちに相談することです。

 大人は正解を知っています。でもあえて言いません。子どもたちは頼られると張り切るし、自分の頭で考えるからです。彼は、子どもたちを伸ばそうとする大人なのです」

 今年2月、『逆境力 貧乏で劣等感の塊だった僕が、あきらめずに前に進めた理由』(SB新書)を出版。貧困の子どもたちの現状や日本のセーフティネットをパックン自身が丁寧に取材している。

 パックンが話す。

「日本は7人に1人の子どもが貧困です。生まれた環境で人生が決まらないためにも、国は子どもたちの生活を支援し、教育にお金を使うべきです。これは投資です!将来的に必ずリターンがある先行投資。僕はメディアでそのことを繰り返し伝えていこうと思っています」

 自身が貧しい家庭で育ったからこそ、思いは人一倍強い。貧乏だからこそ力がつくことも、自身の経験を通して伝えていきたいと考える。

 トニーさんが話す。

「誰もがパトリックの生き方をまねするのは難しいです。彼は生まれつきの才能と、独自の戦略を持っていますから。ただ、彼から教訓を得ることはできます。その1つが『なせば成る』。壁にぶつかっても越えていくバイタリティーです。

 ただし、そこにも戦略がある。日本人はみんなと同じだと安心しますが、僕らアメリカ人は個性を大事にします。だから、やみくもに『なせば成る』と進むのでなく、自分の個性、得意分野を分析して勝てる場所で挑みます。彼が芸能界で必要とされるのは、戦略が成功しているからです」

 ここ数年、お笑いだけでなく、テレビやラジオの情報番組や報道番組、新聞・雑誌のコラム連載など、マルチに活躍の場を広げている。

 そんなパックンに、次なる戦略を聞くと─。

「まあ、今みたいに仕事が刺激的で、毎日が飽きない感じだったら、オレ、幸せです」

 と、満足度の高さを口にしつつ、次の瞬間、少年のように目を輝かせて続ける。

「子どもたちの手が離れたら、BSとかユーチューブで、『パックンのインド生活』みたいなドキュメント番組をやってみたいです。実現するなら、引っ越してもいいです。『アフリカでお笑いに挑戦!』なんて企画もいいな。また一から言葉を覚えてね。一緒に行く奥さんは、めまいがするかもしれませんけど!」

 たぐいまれな才能と行動力は50代に入っても衰え知らず。パックンの冒険の旅は、まだまだ終わらない。

〈取材・文/中山み登り〉

 なかやま・みどり ●ルポライター。東京都生まれ。高齢化、子育て、働く母親の現状など現代社会が抱える問題を精力的に取材。主な著書に『自立した子に育てる』(PHP研究所)『二度目の自分探し』(光文社文庫)など。大学生の娘を育てるシングルマザー。