未成年による盗撮は逮捕されることも

 さらには接客中の風俗嬢を狙った盗撮も相次いでいる。

 今年6月に立川市内のホテルで風俗店勤務の女性(31)が19歳少年に殺害された。

 被害者女性は加害少年が部屋にカメラを持ち込んでいたことに気がつき、トラブルになった、とも報じられている。

 この加害少年のように未成年の子どもが盗撮をするケースも少なからずある。

「母親にとっては息子が性犯罪の加害者になるとは、まさに青天の霹靂(へきれき)です。“まさかうちの子が……”という驚きとともに、周囲からも“親の育て方が悪かったんだろう”“親の顔を見てみたい”など心無い言葉を浴びせられます。しかし専門家からすると、親の育て方と加害者の問題行動には直接的な相関関係を示すエビデンスは皆無です。けれど特に母親は、“私の育て方が悪かったから”という子育て自己責任論によって追い詰められ、誰にも相談できずに苦悩します

 同クリニックでは、「妻の会」をはじめとする加害者家族の支援にも取り組んでいる。

「“うちの子は手のかからないいい子でした”と言う親御さんもいますが、実はそれはあくまで親にとっての『いい子』。子どもは自分の欲求や欲望を巧妙に隠しながら、親の期待を先取りしてニコニコとした仮面をかぶっていたというパターンもあります」

 過去に、検事として盗撮加害者を取り調べた経験のある高橋麻理弁護士は、語る。

盗撮をすれば未成年とはいえ、14歳以上になると刑事責任を負う可能性はあります」

 事実、盗撮をした疑いで高校生が逮捕された事例もある。

「成人の場合は刑事処罰が科せられる可能性がありますが、少年法の下では、少年更生のために必要な手続きが進められることになります。未成年者の場合、当人も、善悪の判断がついていないことも考えられます。大人たちは処罰をする前に、『悪ふざけの先』にどういう危険があるのか、子どもたちにモラルを教える必要がありますよね」(高橋弁護士)

 また子どもから盗撮の被害を相談された際、大人が心得るべきことがある。

盗撮の被害者はその後も“SNSにアップされたらどうしよう”など、不特定多数に晒される不安にさいなまれます。人によっては駅を利用できない、電車に乗れなくなるなど、日常生活が脅かされることも。相談を受けた人の“そんな短いスカートをはいているせいだ”と被害者の服装を注意したり、“触られたわけじゃあるまいし”など軽視する言動は、二次被害につながります」(前出の斉藤さん)

 性犯罪にもかかわらず、軽く扱われがちな背景には法整備の問題もある。

「現在、盗撮罪という法律はありません。取り締まるのは、各都道府県が制定する迷惑防止条例だけ。つまり全国で統一した基準がないので、塾のトイレや会社の更衣室など、『公共の場所』以外での盗撮行為は、処罰できる県とできない県があるのです。銭湯などでの盗撮行為は、軽犯罪法が適用できる場合もありますが、『30日未満の拘留か、1万円未満の科料』と極めて罪が軽い」(高橋弁護士)

 盗撮で加害者を起訴することは一筋縄ではいかないもどかしい現状。だが、泣き寝入りしないための策もある。高橋弁護士は述べる。

盗撮は常習性が高い性犯罪。被害届を出すことで、後に加害者がまたどこかで盗撮をして捕まったとき、加害者のスマホに残っていた画像と提出しておいた届けが結びつき、立件につながるかもしれません。犯人が証拠隠滅を図っても、警察側がデータを復元することもありますよ。最近では、ようやく法制審議会でも『撮影罪』という名称で、盗撮を取り締まる法律を作る動きが出てきましたが慎重な議論は必要ですね。現状の迷惑防止条例でも、適切に運用すれば一定の抑止力にもなるとも考えられます」

 現在の日本は盗撮大国とも言われている。

「被害を防ぐためには、日常から誰かを無断で撮影することが、どう他者に影響を及ぼすか、より自覚することです」(斉藤さん)

 ある日突然、夫や息子が盗撮で捕まり、加害者家族になる可能性も。スマホで簡単に撮影できる便利さの背後には、危うさが秘められている現状を改めて考え直したい。

斉藤章佳=著『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)※記事内の画像をクリックするとamazonのページにジャンプします
【写真】盗撮加害者は“普通の人”が大多数! 職業などのデータをまとめて見る
お話を聞いたのは…

精神保健福祉士・社会福祉士 斉藤章佳さん
榎本クリニックにて依存症問題に携わる。著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)など

弁護士 高橋麻理さん
Authense法律事務所所属。検察官として殺人、詐欺、性犯罪事件など刑事事件の捜査、公判に携わった。退官後、弁護士に。刑事事件、離婚等家事事件等を担当

《取材・文/アケミン》