よくも悪くも影響力のあるインフルエンサー

 では具体的にはどのような被害が考えられるのか。

 まず、自分よりも身体の小さい在来の水辺の生き物を捕食し、その住処を奪うことが考えられる。似たような在来のカニ類と競合すれば、その生態すらも脅かされる。川や湖の生態系までもが変わってしまう可能性があるのだ。

 さらに上海ガニは日本在来のモクズガニとの交雑も可能とされており、交雑種の増加は在来種の絶滅につながる生態リスクを伴う。

「不法に持ち込まれた上海ガニが甲殻類に感染する病原菌を保有しており、国内にない病気が広がる恐れもあります。水産業にも影響が出ることも懸念されています」

 幸いなことに現在、国内では上海ガニの定着は確認されていない。しかし、ヨーロッパやアメリカを中心に世界各地では繁殖し、生態系に悪影響を及ぼしているのだ。

「イギリスでは在来の絶滅危惧種であるザリガニがさらに減少する要因ともなっています」

 今回、かねこさんは購入の経緯を「オークションサイトのおすすめ欄に出てきたことから“珍しい”と思い、特定外来生物だとは知らずに購入した」「大きなショッピングサイトで売られているから買って大丈夫だと思い込んでいた」「カニには外来生物はいないという浅はかな固定概念があった」と明かしていた。

 また、「知らずとは言え、違法行為を行ってしまいました。〈中略〉(僕が購入したとき上海ガニは)生きていましたが僕は許可証を持っていませんでした」と謝罪をしている。

 だが、かねこさんは今後、罪に問われる可能性もある。前出・環境省の担当者によると、

注意を呼び掛ける環境省のポスター(同省より)
注意を呼び掛ける環境省のポスター(同省より)
【写真】「スキンヘッドふう」で謝罪、お騒がせユーチューバーたち

「どれだけの罰則が科せられるのかは前科前歴、その状況などをふまえ検察、裁判所が判断します。

 特定外来生物を無許可で売買、飼育、譲渡、移動などさせた場合、個人で最高で3年以下の懲役、もしくは300万円以下の罰金。法人の場合は1億円以下の罰金が科せられる場合があります」

 現在、警察や環境省とも話しているそうだが11月19日現在、なんからの法的な動きがあったことは確認されていない。

 だが、上海ガニに限らず身近なところにも特定外来生物は生息している。

「アライグマ、カミツキガメ、ウシガエル、ブラックバスなども特定外来生物です。環境省の許可がなければ飼育はできませんし、購入や譲渡、運んだ先で被害を広げてしまう恐れがあることから別の場所に運ぶこともできません」 

 ウシガエルやブラックバスなど、近所の沼や池などで子どもたちが獲ってきて、飼育することも違法にあたる。

 特定外来生物はなにも自分たちで泳いで日本にやってきたわけではない。

「日本は輸入大国です。上海ガニのように食用される場合に限らず、ペット、養殖目的で輸入されています。本来いないところに人が持ち込んだものです」

 荷物に紛れて日本に持ち込まれる場合もある。特に「ヒアリ」や「セアカゴケグモ」などは人への被害が懸念されるため問題になっている。

 かねこさんは謝罪動画の最後をこう締めくくっていた。

「魚介類の料理などの知識はあるが、生態系や外来生物に関する知識がゼロに等しくて今回そういうことが重なってこうした事態が起きてしまった。今後は魚の料理や調理だけでなく魚介類の生態系や外来生物についてももっと勉強していきたいと思います〈中略〉特定外来生物や取引していけない生物は上海ガニだけではないと思っております。今、インターネットでなんでも買える時代、どこに落とし穴があるかわからない」

 週刊女性では上海カニ騒動についてかねこさんに見解を聞こうとメールで取材を申し込んだが期日までに返信はなかった。

 前出・環境省の担当者はかねこさんらインフルエンサーらの発言には危機感と期待の両方があることを明かす。

「影響力のある人たちがあたかも誰でも買える、本当は違法である行為が合法的に扱える、というように発信し、野放しにされてしまうのは問題です。

 ですが法律違反に当たることがあって、きちんと間違いを正し、“気をつけてください”と発信をしてもらえると非常に効果があるんです。私たちが発信するよりもっと多くの人に注意喚起が届くと思います」

 ゆっくりと英気を養い、活動を再開した後は子どもたちの未来のため、人も生き物も安心して生きていける活動を第一線で続けてもらいたいものだ。