交際相手の気を引くために放火

 美津子は秋田県内に生まれた。おとなしそうな外見だったが、美津子は別の一面を持っていた。その片鱗が見え始めたのは、彼女が中学生のころまで遡る。

「彼女とは別の高校へ行ったほうがいい。」

 美津子には中学時代、親友の女子生徒がいた。しかし高校進学の保護者面談の席で、担任の教師はその親友の保護者に対し、美津子と距離をとるようアドバイスした。

 美津子とその女子生徒は一見仲がよく見えたが、実は美津子が“主”となる主従関係だったと言うのだ。

 さらに、高校卒業後には一つの事件を起こしている。

 雑誌の文通欄で知り合った男性と交際するようになった美津子だったが、相手の男性はすぐに美津子と距離を置くようになった。

 それを不安に感じた美津子は、なんと駅舎や酒屋の段ボールなどに火をつけ始める。そして、すぐさま119番通報していた。

「私が火の中で死んでいくのを見れば、私の愛がどれほど深いかわかってくれる」

 そう、美津子の交際相手は現役の消防士だったのだ。美津子は男性に会いたいがために、わざと放火事件を起こしては消防士を現場に急行させていた。

 このような美津子の行動からは、人を思いどおりに操りたい、というものを感じる。そしてその暴走は、結婚後、さらに加速していく。

夫を自殺未遂に追い込んだ「異常行動」

 美津子は出会い系サイトを通じて知り合った男性との間に子どもができたことで最初の結婚をしたが、その結婚は1年も持たなかった。美津子は意に沿わない出来事が起こると突然家出したり、自室で独りごとを言うなど突飛な行動が目についた。

 たまりかねて夫が話を聞こうとすると、美津子は家出しそのまま婚家には戻らなかったという。

 その2年後、再び出会い系で知り合った男性とこれまた子どもが出来た(被害者の陽介ちゃん)ことで結婚。しかしそこでも美津子は、気に入らないことがあれば義母であろうが暴力をふるい、夫の仕事までかき乱した。

 ある日、出勤しようとする夫の車の前に立ちはだかると、鍵を奪った。口論となった末、美津子は夫と義母に対し「離婚してやる! 慰謝料よこせ! 養育費よこせ!」と喚き散らした。

 売り言葉に買い言葉で離婚に応じた夫が通帳を投げつけると、「こんなんじゃ足りねぇ!」と要求が上がり、しまいには1000万円を要求したという。

「そこまで言うなら保険金で払ってやる」

 心身ともに疲れ果てた夫は、そう言うと灯油をかぶり、火をつけた。

 幸い、家族が周りにいたことからすぐに火は消し止められ、夫の命に別状はなかったというが、美津子は自身の言動を省みることなく陽介ちゃんを連れてさっさと実家へ逃げ帰っていた。

 陽介ちゃんを手放したくなかった夫は必死に親権を求めたが、結局親権は美津子のものとなった。

 美津子の対人関係を見ると、確かに消防士のことは感情もあっただろうが、それ以外の関係は損得勘定、金である。子どもを盾に搾り取るだけ搾り取って、相手がパンクすると用済みとばかりあっさり手を引くのだ。

 対象者を取り込むと途端に本性を現し、ありとあらゆる手段で支配する。しかもそれが叶わないとなると豹変。暴力や無理難題をおしつけることで相手を疲弊させ、我を通そうとする。うまくいかずにイラ立つと極端な行動に出る傾向もあった。

 そして、その行動は幼い陽介ちゃんにも向けられる。

◆   ◆   ◆

 一時期暮らした母子寮では、美津子による陽介ちゃんへの深刻な虐待が報告されていた。

 職員らの目があるにもかかわらず、陽介ちゃんに睡眠薬を飲ませたり殴るといった虐待を行っていたのだ。

 母子収容施設などでも暮らしたあと、美津子はまたもや出会い系サイトで知り合った男性と同居し始める。

 そして、あの事件が起きたのだった。

 しかし逮捕されたのはこの同居していた男性ではなかった。そのずっと前から複数いた交際相手の一人が、あの男だったのだ。