今年の4月から再開される、子宮頸がんワクチンの接種。副反応を危惧する声もある中で国が接種勧奨に踏み出した背景とは。

年間約1万人超の患者

 昨今、話題になったワクチンといえば新型コロナワクチン。しかし、今年4月から予防接種法に基づき市区町村が公費で行う『定期接種』に大きな変化が起こる。

 2013年4月に小学校6年生から高校1年生の女子を対象に定期接種となりながら、一部で接種後の副反応を訴える声があったヒトパピローマウイルス(以下HPV)ワクチン。通称・子宮頸がんワクチンは、定期接種開始から、わずか2か月で厚生労働省が市区町村に接種を促す活動(接種勧奨)の差し控えを求めることになった。その接種勧奨が4月から約9年ぶりに再開される見込みだ。

 HPVは一般女性の約8割が生涯に1度は感染すると推計されるほどありふれたウイルスで、性行為が主な感染経路。体内に入ったHPVは子宮頸部と呼ばれる子宮の入り口付近に感染して「異形成」と呼ばれる異常な細胞を作る。異形成の多くは免疫反応で排除されるが、一部が悪性化して高度異形成へと進展し、最終的に子宮頸がんに至る。

 世界保健機関(WHO)の推計では、2018年時点で全世界で57万人の女性が子宮頸がんと診断され、31万1000人が命を落とした。日本では年間約1万人超の患者が発生し、死者は年間3000人弱。従来、50代以降の患者が多かったが、近年は性行為開始の低年齢化なども影響し、患者の若年化が進んでいる。産婦人科医の平野翔大医師は、

「子宮頸がん患者の最多年齢層は40~50代ですが、異形成は20~30代が多く、中にはまれですが不正出血で受診した10代後半の女性で見つかることもあります。異形成も含めれば、産婦人科では珍しくはない病気です」

 と説明する。原理的にはHPV感染予防で子宮頸がんも予防できると考えられ、ワクチン開発が進展。2006年に世界初のHPVワクチンが欧米で市販され、2009年には日本でも承認されている。臨床試験では接種により異形成はほぼ100%予防できることが明らかになり、多くの国で公的接種プログラムに組み入れられた。

 しかし、日本では接種した女児の一部で全身の痛みや脱力感など、ワクチンの副反応を疑われた多様な症状の訴えがあり、これまで約9年間にわたって接種勧奨が中止されていた。

「実は日本と同じく副反応を訴える事例は海外でもありましたが、当初から専門家の間ではワクチンとの因果関係は薄いとみられていました。そのため国主導でネガティブ情報を打ち消すキャンペーンが行われた事例もあります」(平野医師)

 例えばアイルランドでは12~13歳女児に対する接種プログラム開始当初、接種率は80~90%だったが、安全性を問題視する団体の活動を機に約50%に低下したという。

「しかし、政府が専属機関を設けてSNSやメディアを使った接種キャンペーンを展開し、医療従事者向けに正しい情報を伝える教育プログラムまで実施した結果、接種率は70%まで回復しました」(平野医師)