加害者の身元引受人になる家族も

 家族間殺人の遺族は、被害者家族であると同時に加害者家族でもあり、どちらのアイデンティティが強いかは被害者加害者双方との関係性によって実にさまざまである。

 事件後、当然、加害者に対して厳しい処罰を望む家族もいる。その心境は複雑であるが、家族間殺人事件であっても、事件を起こした加害者の身元引受人を残された家族が担っているケースも少なくないのが現状である。

 家族たちは、社会に迷惑をかけたという罪責感から、更生の担い手を断ることが難しく、更生支援も十分ではない社会事情から、加害者との関係維持を余儀なくされてきた。

 「家族の問題は家族で解決すべき」という無理な価値観こそが、事件を繰り返す悪循環を生んできた。もっとも安全な場所であるはずの家庭が、命を奪われる現場となってきたにもかかわらず、防犯の手立てがないのが家族間殺人である。

 事件は決して特殊な人々の間でだけ起きているわけではない。人の成長とともに家族も日々変化しており、長寿社会となった現代では、従来予想だにしなかった問題を抱えたとしても不思議ではない。家族間の事件を防ぐためには、家族それぞれが、いざというとき、経済的自立ができることと、家族間の精神的距離を保つことだと考える。

 他人に対してであれば堪えたであろう感情を家族ゆえに爆発させてしまい、後悔した経験は誰しもあるのではないだろうか。家族間であればすべての行為が許されて当然と考えるのは大きな間違いである。

 同居していたとしても、血が繋がっていようとも、家族は自分ではない。自分は我慢できることであっても、家族が同じように我慢できるとは限らない。他人にしないようなことは家族にもすべきではない。

家庭の問題は利害関係のない専門家に相談を

 家族間で問題が生じた際は、親族を巻き込まず、家族とは利害関係のない第三者に相談しておくことを勧める。仲裁役として、関係が近い親族が適当だと考えるかもしれないが、親戚も利害関係を有している可能性があり、むしろ親戚を巻き込むことで問題をこじらせるリスクが高いのである。

 他人であっても、家族と関係が近い人は問題に巻き込むことになりかねず、家族の問題を専門とする相談機関に相談を持ち込むことを勧めたい。

 社会で利用できるサービスは積極的に利用し、社会にさまざまなつながりを作っておくことが、家族依存の予防となりリスクを減らすことに繋がる。

 加害者家族支援の現場で、数多くの殺人事件を見てきた立場としては、家族間で起きる事件こそ、多くの人が加害者及び被害者になるリスクを孕んでおり、同様の悲劇を防ぐため、時間をかけて十分な検証が行われることを願うばかりである。

阿部恭子(あべ・きょうこ)
 NPO法人World Open Heart理事長。日本で初めて犯罪加害者家族を対象とした支援組織を設立。全国の加害者家族からの相談に対応しながら講演や執筆活動を展開。著書『家族という呪い―加害者と暮らし続けるということ』(幻冬舎新書、2019)、『息子が人を殺しました―加害者家族の真実』(幻冬舎新書、2017)、『家族間殺人』(幻冬舎新書、2021)など。