法外な報酬を要求されるトラブルも

石田さんのユーチューブチャンネル。
石田さんのユーチューブチャンネル。
【画像】小学校で激増!いじめ認知件数の推移グラフ

 石田さんは、いじめ問題に関する動画をユーチューブで収益化していない。学校を訪問した際の交通費や宿泊費、動画編集にかかる費用はすべて自腹だ。

「多くの人に知ってほしいからです。広告が入ると見にくくなります。自腹を切ってまでして、問題解決に導くようなことをする人はいるのかな。期待できるとすればユーチューバーくらいじゃないですか」(石田さん)

 今後、ユーチューバーがいじめ解決の手段になりうるのだろうか。前出・藤川教授は、「ユーチューバーが乗り出さなきゃいけない状況を考えたくないですね」と話し、その理由をこう説明する。

「学校や教育委員会には、いじめを放置したり、看過したりしてはならないという法的な義務があります。つまり、学校や教委が法令にのっとって、いじめに真剣に対処すればすむ話なんです。しかし実際には、ひどい対応の学校や教育委員会があり、被害者は困り果てています。そこを解決しなければなりません」

 藤川教授らは、『いじめ当事者・関係者の声に基づく法改正プロジェクト』を立ち上げている。

「教育委員会が法令にのっとった対応をしていない場合、相談できる窓口を作って、国の責任で指導できる仕組みが必要です」(藤川教授)

 今回、石田さんの活動は法的な問題もなく、解決に導くことができた。今後も同様の相談をする人が出てくるかもしれない。しかしユーチューバーの介入方法によっては、意外な落とし穴にはまることもある。

「ユーチューブでのいじめ介入には、被害者が特定されるリスクもある」と鬼澤弁護士
「ユーチューブでのいじめ介入には、被害者が特定されるリスクもある」と鬼澤弁護士

 前出の鬼澤弁護士が指摘する。

いじめを訴えた生徒側に注目が集まった場合、批判にさらされるリスクもあります。学校に突撃するとしても、生徒本人の不利益を考える必要があるでしょう」

 さらに気をつけたいのは「非弁行為」だ。弁護士資格のない人が報酬を得るために交渉などに乗り出すことは、弁護士法に違反している。

「報酬は金銭での報酬に限りません。相談料の名目でも、実質的にトラブル解決の報酬となると、非弁行為に当たるおそれがあります。相談者からお礼をしたいと言われても、ユーチューバーとしては断るべきです」

 と鬼澤弁護士。

 また残念ながら、相談者に金銭を不当に要求するケースも珍しくない。筆者の取材でも、弁護士資格のない個人やNPO法人がいじめ問題に介入し、謝礼や相談料として事実上の報酬を請求しトラブルになった話を頻繁に聞く。信頼できる相手か見極め、注意することが必要だ。

取材・文/渋井哲也
ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。若者の生きづらさ、自殺、いじめ、虐待問題などを中心に取材を重ねている。『学校が子どもを殺すとき』(論作社)ほか著書多数