「新しい技をやる場合、まずは練習で成功させて、エキシビションやアイスショーで試して、試合につなげていくのが、一般的な段階としては望ましいと思います。いきなり試合で挑戦するのではなく、お客さんのいる緊張感のなかでどのくらいできるのかを見ながら、調整していくのです」

経験を重ねる段階にない選手

中学1年のあどけない羽生結弦と田中刑事('07年『全日本ノービス選手権』公式パンフレットより)
中学1年のあどけない羽生結弦と田中刑事('07年『全日本ノービス選手権』公式パンフレットより)
【写真】荒川静香らと高級ホテルで…『FaOI』出演者と和んだ様子の羽生結弦

 しかし、羽生はアイスショーを終えたばかりなので、試す場がないまま実戦を迎えることになるが……。

「普段から曲をかけての練習もしていますし、試合前の公式練習は観客も入った緊張感のある状態。多くの経験を積んでいる羽生選手であれば、練習である程度安定して跳べるようになっていれば、公式練習で調整すれば大丈夫でしょう」(スポーツジャーナリストの折山淑美さん)

 五輪王者、世界王者のタイトルをそれぞれ2度つかんでおり、北京五輪もコーチなしで戦い抜いた羽生には、“一般的な段階”を踏む必要はなさそうだ。

 では、折山さんは気になる羽生の初戦をどうみるか。

「この2年、羽生選手は『グランプリシリーズ』に出場せず『全日本』に挑んでいましたが、完成しきった演技を見せていましたから、『全日本選手権』と『世界選手権』だけでもよいと思います。多くの選手は、プログラムを海外の審判に印象づけたり、審判の判定を見たりするために『グランプリシリーズ』などの国際大会に出ますが、羽生選手はすでに大会に出て経験を重ねるという段階ではありません。ですから、『全日本』と『世界選手権』だけでも、4回転半を成功させる可能性は十分にあると思います。それほど、超越した選手なのです

 ゆづの演技が見られる機会が少ないのは寂しいけれど、“一発必中”で北京のリベンジを果たしてほしい!

佐野 稔 元フィギュアスケート選手。'76年インスブルック五輪に出場経験があり、'77年世界選手権では3位となった。現在は複数メディアでフィギュアスケートの解説をしている
折山淑美 '90年代初頭からフィギュアスケートを取材し、'10年代からは羽生結弦を丹念に追っている。'21年には羽生との共著『羽生結弦 未来をつくる』(集英社)を刊行