准看護師から正看護師へ、働きながら学ぶ日々

 原告の70代男性は、妻と孫との三人暮らしだった。

 2014年7月に生活保護を申請し、8月から受給している。原告の生活保護申請からさかのぼること4か月前、孫は准看護科(二年制)に入学している。そこで、福祉事務所は孫が就学して資格取得をし、最終的に自立するという長期的目標を立て、就学が続けられるよう「世帯分離」をして孫を生活保護から引き離した。

 生活保護における「世帯分離」とは、生活保護利用世帯の子どもが大学や専修学校に進学する際、家族とは別世帯とみなす制度だ。現行の生活保護法では、生活保護を利用しながらの大学や専修学校への進学がまだ認められていないため、国がとった例外措置である。

 世帯分離になると、生活保護利用世帯と同居しながらも大学・専修学校などへの進学ができ、就労しても収入申告の対象にはならない。

 孫は祖父母と暮らしながら、准看護科で学びながら病院に勤務し、学費や生活費などを工面している。

 2016年に准看護科を卒業した孫は、看護科(3年)に入学。引き続き病院で勤務しながら専門的な学びを深めていく。朝6時半に家を出て夜9時半に帰宅する毎日。土日は学校が休校なため、病院勤務をし、休みなく勉強と仕事に明け暮れているのを、福祉事務所のケースワーカーは祖父母から聴取している。

 その勤勉さや人柄、真面目な働きぶりは勤務先でも評価され、卒業後の勤務も約束されている。

給与増によって世帯分離が解除され、保護廃止処分に

 2017年1月にケース会議を経たのちの2月14日、福祉事務所は孫の収入が増え、健康保険や年金にも加入できたことを理由に、就学途中であるにも関わらず、「世帯の収入が最低生活費を上回るため」として、世帯分離を解除し、原告夫婦の生活保護を廃止した。

 つまり、孫の収入で祖父母を養えということなのだが、しかし考えてもらいたい。

 孫の収入は確かに14万~19万と増えていたのだが、看護学校の実習が始まれば収入が激減することが分かっていた。そのため、事前に働けなくなる近い未来のために貯金をしておこうと思うのは至極当たり前のことと思われる。むしろ、計画性が素晴らしい。

 それなのに、福祉事務所は世帯分離を解除し、孫が祖父母を養えば生活ができるはずと、祖父母の生活保護を廃止してしまった。その処分が意味することは……。

1.孫は看護学校での就学を断念しなくてはならなくなる

 祖父母を養うために収入を使えば、看護学校での就学は続けられない。准看護師の資格のみでは将来の選択肢は限られる。もともと福祉事務所が「5年間の就学ののち自立」という長期プランを立てた上で世帯分離をしているのに、目的に達していない状態で世帯分離解除&生活保護打ち切りは矛盾している。

2.孫が就学を続ければ、祖父母はただちに困窮するのが明白

 仮に孫が祖父母を養うのを拒否し、自分の将来を優先した場合、自分を養育してくれた祖父母が困窮するのが目に見えている。高齢であるのに医療も受けられないだろう。これから長く続く自分の人生か、養育してくれた祖父母か、そんな究極の選択を迫られた孫の気持ち、また、自分たちの存在が孫の将来を阻害するという苦悩に引き裂かれたであろう原告夫婦の気持ちを、福祉事務所は考えたのだろうか。