重病サイン7 においがわかりづらくなった→認知症

 高齢者が「最近、においがわからなくなった」と言い始めたら、認知症の疑いがある。嗅覚障害は、認知症のごく初期にあらわれる症状だからだ。認知症の人は、鍋を焦がしても気づかなかったり、料理の味つけがおかしくなったりしがちだが、それは単なる注意力低下ではなく、嗅覚障害も原因だと考えられる。

 年相応のもの忘れと認知症の違いは、例えば昨日の夕食のおかずをヒントがあれば思い出せるなら、もの忘れ。食事をしたこと自体の記憶が抜け落ちていたら認知症の可能性が高い。

「現在使われている認知症の治療薬は、原因物質の増加を抑えますが、その効果は進行を遅らせる程度。大切なのは、日頃から脳や神経を働かせることです。私がおすすめするのは文章を書くこと。特に新聞への投書は、じっくりと読んで考えたうえで書く必要があるので効果的です」

重病サイン8 急に暑がりになった→バセドウ病

 バセドウ病とは、のどにある甲状腺の病気。甲状腺では「元気ホルモン」ともいえる甲状腺ホルモンが作られている。甲状腺ホルモンは、身体の新陳代謝を調整したり、心拍数や体温を上昇させる働きをしている。この甲状腺ホルモンが過剰に作られてしまうのがバセドウ病だ。

「元気ホルモン」が必要以上に増えると、ドキドキして脈拍が速くなり、体温が上昇して汗も出てくる。そのため、急に暑がりになったように感じるのだ。

 また、バセドウ病による不整脈から命にかかわる脳卒中や心不全を起こす人もいるので要注意だ。

「女性のほうが圧倒的にかかりやすく、遺伝的要素も関係するとされています。早期発見すれば薬で治せる病気。女性の方や、血縁にバセドウ病の方がいる場合は、暑がりになったと感じたら特に意識してほしいですね」

重病サイン9 食後に口の中がかゆくなった→アナフィラキシーショック

 最後に、見過ごすと即、命にかかわるサインを紹介したい。アレルギー症状が全身で一気に起こるアナフィラキシーショックは血圧が急低下し、意識障害や呼吸困難などが起こる。食べ物だと、カニ、えび、そば、卵、桃、バナナなどを少量食べただけで起こることがあるという。

 食べ物の場合はおよそ1~2時間でじんましんなどが起こるので、放置せずにすぐに病院へ。口の中がかゆくなってきたら粘膜まで異常をきたしたサイン。息が荒くなってくるようならすぐ救急車を。

「短時間で重症化するので、命にかかわります。一刻も早く対処してください」

診療科に迷ったら総合内科がおすすめ

 腰痛がうつ病からくるとか、嗅覚障害が認知症の初期症状だとか、知っていなければ思い至らないだろう。例えば腰痛で整形外科に行っても、うつ病が原因だったら、いくら検査しても異常は見つからない。原因不明のまま放っておくと症状が治らないうえに、隠れた重病の治療が遅れることになってしまう。

 秋津先生は、「なかなか原因がわからなかったり診療科に迷ったら、大学病院などに開設されている総合内科外来を受診するのもおすすめ」とアドバイスする。

 総合内科とは、一人の患者を循環器、消化器、呼吸器など各内科領域を含め、全身を横断的に診るという比較的新しい概念の診療科だ。現代医療は高度化すると同時に、診療科が臓器別、疾患別に細かく分かれるなど専門化が進んでいる。

 そのなかで総合内科医は、専門に偏らずに症状を全身的に見極め、適切な専門医に導く案内役も担っている。秋津先生も日本内科学会の認定総合内科専門医だ。

「身体のSOSに早期に対処できるか否かが運命の分かれ道。ちょっとした不調だからと放置せず、医師にしっかり診てもらうことが大切です」

 話を伺ったのは……秋津壽男先生 ●秋津医院院長。1998年、東京都品川区戸越銀座に秋津医院を開業。かかりつけ医として地域医療を担う一方、「何でも解決!スーパー町医者」としてテレビ出演・講演も多い。著書に『放っておくとこわい症状大全』(ダイヤモンド社)ほか多数。

〈取材・文/志賀桂子 イラスト/伊藤智代美〉