普通の生活を知らない受刑者

 感謝され、頼りにされ、求められる。人はその積み重ねで成長していくのではないか。塀の中で出会った人々の人生を知るとき、その思いは強くなった。

「親に褒められたり、人にありがとうと言われたり、誰かに優しくされたとか、そういう小さな関わりの連続で、人は人を信じる力をもらい、希望を持てるのだと思います。一方、塀の中にいる彼らの人生を知ると、生育環境や周りの条件がとてもマイナスに作用している人が多い。普通の人間関係を知らないから、普通に振る舞うことができない。そういう人が犯罪につながっていくことは、ここで働き始めて直面した現実です」

 犯罪者が刑務所医療を受けることを腹立たしく思う人もいるかもしれない。被害者の立場になればなお許せないのも当然だ。しかし、「刑務所はただ罪人を閉じ込めて懲らしめる場所ではない」と、おおたわさんははっきり言う。

刑務所の本当の目的は、懲役という労働力をもって罪を償う場所なのです。そしてその毎日の中で自省や学びを経験し、更生の道が開けていく。心身がある程度健康な状態でなければ、規則正しく働き、罪を償うことはできません。

 だからこそ国の責任として彼らの体調管理をするスタッフが必要であり、そのために私たちがいる。遠回りなようですが、それがもっとも再犯防止につながるんです」

 私たちが偏見や差別をもって石を投げれば、結局社会に戻った彼らはまた悪に手を染めるしか生きる道がなくなり、新たな被害者を生む。負の連鎖は続いていくのだ。刑務所の中でも、何度も罪を重ねて収監される累犯率がもっとも高いのは薬物依存者だという。