20歳から12年間、彼と同棲

 そもそも三ツ矢さんは自身のセクシュアリティーを隠したことはなく、友人や仕事仲間はみんな知っていて、「何を今さら言っているんだろう」という反応だった。

 子役時代からの友人で、毎年のようにニューヨークのブロードウェイの舞台を一緒に見に行くほど仲のいい、前出の戸田さんは、こう語る。

「三ツ矢さんは『中学生群像』のころも、同級生役の竹下景子さんなど女の子たちとキャッキャッとおしゃべりしていた印象があり、男女の壁なんかなかったんじゃないかしら。私も三ツ矢さんが男とか女とか考えたことないです(笑)。三ツ矢さんにパートナーがいたことも、もちろん知っていますし、その方も一緒に旅行したこともあります」

 子どものころから女の子とばかり遊び、しぐさもやや女の子っぽかった三ツ矢さん。小学校5年生のときに好きだったのは6年生の男子。

「まぁそのころはうぶなので、同性愛という言葉も知らない。ただ、児童劇団にいた中学生のとき、マネージャーに『三ツ矢君ってオカマみたいだね』と言われて。そのとき初めてオカマという言葉が何を意味するのか知って。友達の竹下景子ちゃんに『僕、オカマらしいよ』『そうなんだ』と会話したのを覚えています。

 そのころから、なんとなく同性愛というものがあるのだなとわかってきて、三島由紀夫の『仮面の告白』や『禁色』を読みましたね。中学生には難しかったですけど」

 20歳のとき、同い年の大学生と恋をし、同棲する。

「彼は大学卒業後に会社勤めをし、僕の仕事の現場まで車で送り迎えしてくれて、僕の仕事仲間と一緒に食事したりも。だから、みんな彼のことを知っていました。いつも彼がそばにいたので、僕はひとりで遊びに行く機会もあまりなく、一途(いちず)でしたね」

 だが、その男性は、女性と結婚する道を選んだ。

「LGBTQも性格のひとつ」とマイノリティーとそうでない人との“まぜこぜ社会”について語る 撮影/高梨俊浩
「LGBTQも性格のひとつ」とマイノリティーとそうでない人との“まぜこぜ社会”について語る 撮影/高梨俊浩
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「おばあちゃんに『おまえが結婚する姿を見たい』と言われた、と。どうしようと聞くので、『じゃあ結婚すれば』と僕も賛成したんです。

 12年間も一緒にいたから、もう熱い愛情は冷めて、彼に対しては親戚みたいな感情でした。幸せになってくれればいいと思って、32歳で別れました

 そのときも、そして今も「1人が寂しい」と感じることはないという。三ツ矢さんには、気にかけてくれる友人がたくさんいる。戸田さんは「私はいつも三ツ矢さんのことを『おばです』と人に紹介するんです、もう親戚みたいなもの」と笑う。

「私が演劇の舞台に立つときは必ず見にきてほしい人のひとり。演劇全体の出来や、私のことや他の役者さんの演技もきちんと見て意見を言ってくれる、頼りになるおばです」

 三ツ矢さんの誕生日は毎年お祝いをするそう。「共通の友達を呼んで食事して、プレゼントを渡して。日頃から、三ツ矢さんの好きなミョウガの甘酢漬けやピクルスを作って持っていったりも。そういうハートウォーミングな交流はずっと続けていきたいですね」と戸田さん。

 日高さんは、ユーモアを交えてこう語る。

「昔は私が教わる立場でしたけど、今は小姑(こじゅうと)のように、『三ツ矢さん、声が若いころのまま変わっていないんだから、もっと声優のお仕事もすればいいのに』とか、ああだこうだ言っちゃうので、うっとうしいと思われているかも(笑)。

 でも三ツ矢さんはもう十分すぎるくらい活躍されているので、これからはご自身が好きなことを存分にやって、楽しんでほしいなと思います」

 ふたりの言葉には、三ツ矢さんへの温かい思いがにじむ。