映画製作時にはフィリピンとのミックスルーツとして育った人たちにアンケートを取った。そこで見えたものは、両親とも日本人である私個人とは、全く異なる生活環境だった。

「母子家庭、つまり日本人の父親との間に子どもを授かり、シングルマザーとして子育てする方が多かった。話す中で“偽装結婚”にも触れることになりました。子どもはきょうだいが多く、全員父親が違うという家庭もありました」(飯塚監督)

 どんな日常生活を送っているのか、

「カトリック信者が多いです。家族の中で宗教の関わりがあり、習慣的にミサに通っている方も。女性はパブで働いている人が多いので、日本人から見ると、ネグレクトとみなされるような状態がありました

 例えば5歳の子がいても、ほかのきょうだいに世話を任せて、パブに働きに出たりします。日本で生まれ育った子どもは他の家庭との違いを感じ“母親に愛してもらえない”と思っていたりしますが、母親は仕送りに精一杯でそれが当たり前になっていました。昨年フィリピンに行ってスラム街を歩いたときに、そうなってしまう事情もなんとなく理解できました」

(C)「世界は僕らに気づかない」製作委員会
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【写真】映画『世界は僕らに気づかない』葛藤を描いたワンシーン

 フィリピンパブで働く母親と子どもとの関係はどうか。

「子どもが思春期になると悩みも出てきますが、母親は難しい日本語がわからない。学校から配られるプリントも読めない。すると子どもは悩みを打ち明けるのを諦めてしまうんです」

弁当が臭いとからかわれた経験も

 映画では、子どもが抱える問題に気がつかない母親を責めるシーンが出てくる。

「母親がパブで働く子どもの7〜8割はいじめを受けたり、からかわれた経験を持っています。例えば、お弁当にしても日本人はキャラ弁だったりしますが、フィリピン人の母親が作る弁当は、日本にはない調味料も使うので、日本人からしたら独特な匂いがしたりします。

 弁当が臭いとからかわれた経験を持つ方が何人かいました。友達を自宅に招いて誕生日会を開いても、全部、フィリピン料理ですので、友達が引いてしまったという方も。食文化の違いで差別されたり、傷つく経験を持つ方は本当に多かった。授業参観のときも、母親は出勤前のため、香水がキツく、からかいの対象になったという話もありました」

(C)「世界は僕らに気づかない」製作委員会
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