年金だけで暮らせる人は年々減っている

 豊かな老後とはほど遠い高齢者たちの実態はデータからも明らかだ。65歳以上の高齢者世帯の1年間の所得金額はわずか100万~200万円が最も多い。これは、現役世代の中央値437万円から激減している。

「現役を退いたのだから仕方ない、年をとればお金を使うことも少なくなるから大丈夫だろうと思われるかもしれませんが、実は支出は思ったほど減らない。逆に介護費や医療費など、それまではなかった支出が増えます

 日本人の年金支給は65歳からとなったが、実際、年金だけで暮らせる人は年々減っている。男性では65歳を過ぎても6割以上の人が働き、男女合わせると、70~74歳の高齢になっても働いている人たちは3割強にも上る。

「こんなにシニアが働いている国は珍しい。他の国は社会保障が充実していて、老後はあくせく働く必要がありません。日本は年をとっても働かないと生きていけない国になっているのです」

 高齢になっても仕事ができるほど健康で、社会参加の意識も高く、いきいきと日々を過ごせているのなら幸せなことだと思うかもしれない。だが、この数字は「働かざるをえない」という切迫した状況を示していると考えたほうがいいようだ。

 それを証明する小室さん(仮名)の実例を紹介する。

80歳にも求職活動を求める行政の非情

小室和以さん(仮名・80歳)

 若いころは美容師をしていた小室さん。中年になると求人も少なくなり、その後は飲食店の洗い場などで働いてきた。身体を動かして働くことは好きだったので、年金開始後も70代後半まで週5日で清掃の仕事をこなし、月10万円の収入を得てきたという。

 ところが、80歳で脊柱管狭窄症を発症し、日々が一変。折り悪く、コロナ禍で同居の息子は職を失い、娘もパートのシフトに入れない日が続いた。

 この間、収入は小室さんと1歳下の妹さんの国民年金だけ。1人2万7000円、2人分で5万4000円程度の年金だけで、家族4人が食べていかれるはずもない。

 どう節約しても家賃が捻出できず、ハローワークで家賃給付の相談ができると知って藁にもすがる思いで足を運んだところ、担当者からは「働くことに前向きではない人には給付はできません」と冷たくあしらわれた。

「働きたくないんじゃなく、働けないんです! 今まで一生懸命仕事をしてきたのにこんな扱いを受けて、悔しくて、情けなくて……」

 小室さんはその場で叫び、泣いてしまったという。コロナ禍で制度の拡充された「住宅確保給付金」は、「誠実かつ熱心に求職活動を行うこと」が条件となっていたため、対象外となってしまったのだ。

 高齢による身体の不具合で働けない80歳にまで仕事探しを強いるとは……。下流老人に対して行政は非情なのだ。