壮大なホームドラマ『どうする家康』

 戦国武将の夫婦を中心にした“壮大なホームドラマ”。『どうする家康』では、家康の妻・瀬名の登場以来、家康と絡む場面も多い。過去の大河ドラマでも武将の妻の視点から描かれた作品は人気の高いものもある、と木俣さんは振り返る。

「橋田壽賀子さんが書いた『春日局』、田渕久美子さんの『篤姫』など、夫婦や家族にスポットを当てた作品は、女性が見るようになるとヒットするというジンクスがあります。ただ、今回の夫婦の見せ方は、このような作品とは少し違うかなと。

 古沢さんには『デート~恋とはどんなものかしら』という異色の恋愛モノの傑作があります。この作品のように古沢さんは、捻ったキャラクターや、体制側を皮肉ることで生き生きする作風なのですが、それとも違う新しい描き方で徳川家康と瀬名像を模索しているのかもしれません。ほっこりするいい夫婦ですけどね」

 徳川家康を主人公にした大河ドラマは、実に40年ぶりのこと。'83年の『徳川家康』は、「大河ドラマは近代路線に移行する」と“時代劇大河”最後の作品として企画されたものだった。そんな徳川家康という題材を、敢えて取り上げたのは、若者世代にファン層を広げたいという局側の、新たな取り組みとしての思いが強いのかも。

 歴史モノの重厚さと、エンタメ性の両立。これから変わっていくであろう大河ドラマの“行く先”を木俣さんはこうあってほしい、という希望を込めて話す。

「時代劇に対してのイメージが変わってきているのではないでしょうか。'05年にゲームから始まり、その後ドラマなどに展開された『戦国BASARA』や、'15年には刀剣を擬人化し、ゲーム、舞台などで注目を集めた『刀剣乱舞』のように、ある種の2次創作の世界に入ってきていると感じます。

 ストーリーの軸をしっかりと考えた上で、空想の世界をふんだんに入れた作品を見てみたいですね。それこそ、大河版『刀剣乱舞』をやってみたらどうでしょう(笑)」

どうする家康』でも、5話の服部半蔵と本多正信が駿府に潜入して瀬名を奪還しようとしたことや、10話の側室選びのエピソードなど、フィクションの部分が史実以上に話題になっている。これはまさに、2次創作としての新しい時代劇なのではないだろうか。

 こうした物語の進行に賛否両論はあるが、「古沢さんなら、必ず後半戦に“おお!”と思わせてくれると信じている」と木俣さんはこう続ける。

「大切なのは歴史モノや小説、大河ドラマに対する制作者たちの“愛”なのだと思います。ゼロから作るのではなく、これまで積み上げられてきた歴史と大河ドラマへの愛情を元に、物語を再構築した作品を見てみたいですね」

<取材・文/蒔田 稔>