首の骨を折る重傷を負い、引退の危機に

 当時、時代はクラッシュギャルズ全盛期。女子プロレスラーを目指す若い女性は多く、入門オーディションは、書類審査約3500人を通過した約700人の女性たちの熱気であふれかえっていた。

目で殺さなきゃいけないと思っていましたよ」。引退から20年ほどたつが、プロレスの話に水を向けると、眼光鋭い“デンジャラス・クイーン”の目に戻る。

 同じ会場にいた、同期の女子プロレスラーで、今現在も現役でマットに上がる堀田祐美子選手は、こう証言する。

「北斗はオーディション会場でもみんなから一目置かれていました。みんなが休憩している中でも、1人だけ拳立ての腕立て伏せをやっていた。あの子は絶対に受かるって、みんなが噂をしていました」

 補欠合格だった堀田さんは、北斗さんより1か月後に入門する。そのため、北斗さんへは敬語で話しかけたという。返ってきた言葉は、「同期なんだから敬語はやめて」。それどころか、

「『初めて給料をもらったからご馳走させて』と言われました。近くのケンタッキーに連れて行ってくれたんですけど、“何だろうこの人”って呆気に取られちゃいましたよね(笑)」(堀田さん)

 以来、2人は今に至るまで親友として交流が続く。堀田さんは、「北斗は私より年は1つ下ですけど、ずっと“年下のお姉ちゃん”のような存在です」と笑う。

 北斗・堀田ペアは、マットの上でも結果を残し、デビュー2年目にWWWA世界タッグ王座を奪取。ところが、防衛戦の最中に、北斗さんは首の骨を折る重傷を負ってしまう。医師からは、「プロレスは諦めなさい」と告げられた。

「頭に穴を開けられて、ベッドで2か月間寝たっきりです。私の記憶はさっきまで戦っていたんです。気持ちを奮い立たせるもなにも諦めがつかなかった」

 一命こそ取り留めたが、いつまたアクシデントが起こるかわからない。全日本女子プロレスは「復帰」を許さなかったが、北斗さんは何度も食い下がった。そして、「復帰に賛同する署名を1万人分集めたら考える」という言葉を社長から引き出す。

 インターネットもない時代。1万人の署名はノートに直書きで集めるしかない。「どだい無理な話だろう。これで諦めるはず」。そんな思惑もあったのではないか。ところが、ふたを開けてみたら、8万人の直書きの署名が集まった。まだ2年目の新人レスラー・宇野久子に、である。「このレスラーはきっとすごいことをやってのける」、ファンは気づいていたのかもしれない。