若返り1:聴力の低下を放置しない

難聴(聴力低下)は認知症の最大リスク

 年を重ねれば、耳が遠くなるのは当たり前。しかし、難聴をそのまま放置していると、認知症の発症を急激に早めるリスクがあるという。

「聴力が低下すると、耳から得られる情報が少なくなり、脳への刺激も減ってしまい、脳機能の萎縮につながります。特に、中年期に難聴になると発症リスクは1.9倍に高まります(難聴がない場合を1とした場合)。

 また、私がこれまで行ってきた疫学調査の結果では、難聴によって引き起こされる“社会的孤立”も、認知症発症に大きな影響を及ぼしている、と考えています」

 耳が聞こえにくくなると、相手の言葉を何度も聞き返すようになり、次第に他人との交流を避けるようになる。すると、リスク因子のひとつである社会的孤立につながる可能性が高いという。

「実際、認知症の患者さんからも『難聴なので、町内会の会合に出ても何を言っているのかわからず、行かなくなった』や『家族との会話が減った』という声を聞きます。

 脳の萎縮に加えて、社会からも孤立している状況なのです。聴力は40代ごろから低下するので、難聴予防は中年期から始めるのが理想ですね」

 難聴の主な原因は、加齢や長年の耳の酷使。加齢は止められないが、耳に負担をかける生活は控えてほしい、と浦上先生は話す。

認知症発症のリスク因子一覧
認知症発症のリスク因子一覧

「テレビの音声や音楽を大音量で聴くのはNG。騒音が響く場所では耳栓やイヤーマフの活用をおすすめします。また、静かな場所で耳を休ませる時間も必要です。

 そして、耳の聞こえにくさを感じたら、早めに補聴器を使うのが有効な認知症対策になります。補聴器を選ぶ際は『補聴器相談医』や認定補聴器専門店に相談して、自分に合うものを選びましょう」

《NEW TOPICS》40Hz変調音の音刺激による認知症予防に期待!

 近年、脳への音刺激を認知症予防や脳機能の改善に役立てる研究が進められている。なかでも注目されている音が「40Hz周期の音(1秒間に40回振動する音刺激)」。

 アルツハイマー型認知症の病態を再現したマウスに、この音を聴かせると、脳内の聴覚野と海馬にガンマ波が発生。

 すると、認知症の原因といわれている脳内の「アミロイドβタンパク質」の有意な減少が確認された(*)米国マサチューセッツ工科大学の研究チーム 出典:Nature,2016 Dec 7;540(7632):230-235.)

 これまでは、40Hzのパルス音を長時間聴き続けると負担も大きかったが、テレビなどの日常生活音を40Hz周期の変調音で出力する技術も開発されている。40Hz周期の音刺激を自然な形で聴きながら、認知症のケアができるようになるかもしれない。

テレビなどの音声をリアルタイムで40Hz音に変調できるガンマ波サウンドスピーカー「kikippa」(発売/シオノギヘルスケア)
テレビなどの音声をリアルタイムで40Hz音に変調できるガンマ波サウンドスピーカー「kikippa」(発売/シオノギヘルスケア)