日本ではスポーツ化の難しさもある

 反面、スポーツ化の難しさも理解していると言葉を選ぶ。

日本は、“もったいない”の精神が根強い。それが食にも反映されるという独自の倫理観があります。スポーツ的な魅せ方をするといっても一筋縄ではいかないことは百も承知です。ただ、大食いにはいろいろな側面があるということは伝えていきたい。今年のネイサンズには僕も参加予定ですので、その面白さを自分のYouTubeチャンネルなどで発信することで見方を変えられたら

 そして、フードロスを指摘する意見に対しては、次のようなアイデアを画策していると話す。

「コロナ禍で閉店を余儀なくされた飲食店から、『破棄するのは忍びないので、店内にある食材を食べ尽くしてくれないか』という依頼を受け、食べまくりました(笑)。その動画はとても評判が良かったんですね。大食いが、食べ物を無駄にしているように見えてしまうからこそ、逆にフードロス削減に貢献するではないですが、ポジティブに作用する面もあるんだよ─ということを見せていければと思っています」

 先の阪南大学教授の大野さんは、「当事者と視聴者に距離があり、十分な理解がないまま議論だけが独り歩きすると、コンテンツが縮小し、市場そのものがなくなってしまう」と釘を刺す。

「例えば、記事を書いた高校生に大食いの現場を見てもらうといったことも一つの方法かもしれません。実際に自分の目で見ると、また見え方が変わってくる」と大野さんが話すように、実際にリアルな現場を知ることも議論には欠かせない。

 大食い番組は、曲がり角を迎えているかもしれない。だが、「時代に合わない」のひと言で片づけていいほど、歴戦の大食い選手たちの名場面を、私たちも真っ向から否定することはできないはずだ。

まっくす・すずき 本名・鈴木隆将。東京都生まれ。フードファイター、タレント、株式会社EATers代表。『元祖!大食い王決定戦』にて、'15年、'17年、'20年に完全優勝を達成。'21年、デリバリー専門店『MAX鈴木の背脂飯店』をオープン。YouTubeチャンネル「MaxSuzuki TV」配信中
おおの・しげる 1965年東京都生まれ。阪南大学教授(専攻:メディア・広告・キャラクター)。慶應義塾大学卒業後、電通、スペースシャワーTV、スカパー!、NHKを経て現職。著書に『サンデーとマガジン』『2時間ドラマ40年の軌跡』

<取材・文/我妻弘崇>