この稲葉の成長に、松本も刺激を受け、まさに切磋琢磨する関係。とはいえ、2人という構成はとても難しい。どちらかが不満を持てば、仲介役がいないため、どんどん心は離れていくだろう。

 さらには、1990年代中~後半の小室ブーム、2000年の歌姫ブーム、2010年のグループアイドルの台頭、CDからダウンロードや配信という音楽文化の移行など、大きな時代の変化の波がいくつもあった。音楽性において、さまざまな“揺れ”を感じても当然である。

 そんな中、解散危機が一度や二度あってもおかしくはないのだが、稲葉浩志は解散について考えたことが「(まったく)ないですね」ときっぱり答えている。

「お互いにリスペクトが生まれるように、切磋琢磨するように、お互いがお互いに最初に評価されたい相手であり続ける、というのは大事かなと思います」(稲葉浩志作品集『シアン』/KADOKAWA)

「最初に評価されたい相手」――。B’zの信頼感の深さが見える。

35年間、ブレない「わかりやすさ」

 こうして解散危機ゼロのまま、B’zは普遍的な表現を、極太のメロディーに乗せ、圧倒的なギターとボーカルで伝えてくる。この最強な信頼感と“わかりやすさ”に太刀打ちできるものはなかなかない。

『ギリギリchop』(1999年)や『ultra soul』(2001年)など驚くようなタイトルもあるが、その奥の意味を考える必要はないのだ、とこれまた安心させられる。難しく考えることなどしなくていい。「なんかすごい」で楽しめばいいじゃないか、と。

 いきなりカタカナ表記や英語が突っ込まれたりする。ダジャレや百人一首もでてくるし、情けない弱音も、照れるくらいのベタな表現もガンガン出てくる。だからこそ、彼らの曲からは、日常の匂いとともに、夢追いや神頼みといったぼんやりとした希望とは違う、切実な想いが伝わるのである。

 もちろん35年の活動の中には、異色作も顔を出す。1994年のアルバム『The 7th Blues』では、これまでの流行に沿ったキャッチーな曲作りとは違い、洋楽路線に振り切っていた。前作に比べ売り上げが芳しくなかったため「暗黒期」とも揶揄されているが、自分たちのやりたい方向にスパークさせたこの作品は、前向きなターニングポイントともいえる。

 2003年頃からは、『BANZAI』(2004年)や『SUPER LOVE SONG』(2007年)など、当時の社会問題を反映させた作品も増えていく。コロナ禍に配信限定で発表された『SLEEPLESS』(2022年)もそのひとつだろう。